長崎奉行を務めたこともある名門の大名家を訳あって許嫁とともに出奔した侍・堀田季之助が名を「季蔵」と改め、日本橋木原店にある一膳飯屋・塩梅屋を継いで、「刀」を「包丁」にもちかえて、料理に腕を振るうかたわら、町奉行所に協力して江戸の闇に潜む悪党をこらしめる料理人捕物帳「料理人季蔵捕物控」シリーズの第8弾から第10弾。
怪談落語の影には、昔の未解決事件あり -- 「料理人季蔵捕物控8 へっつい飯」
シリーズ8作目の季節は夏で、6作目と同じ趣向で、落語仕立てである。ただ、6作目と少々異なるのは、収録されているそれぞれの話が完全に独立ということではなくで、太い筋を基本において、一つの話としてまとまりをもっていること。
収録は
「へっつい飯」
「三年桃」
「イナお化け」
「一眼国豆腐」
の4話
おおまかな展開は、夏の盛りの暑さを忘れる趣向で、落語の怪談会が開かれることになる。もちろん、落語にちなんだ季蔵の料理が供されることになるのだが、怪談会の進行に併せて殺人事件が起き、昔の盗賊の事件の解決に繋がっていくというもの。
語られる怪談は、「へっつい飯」が”へっつい幽霊”、「三年桃」が”三年目”、「イナお化け」が”お化け長屋”、「一眼国豆腐」が”一眼国”で、それぞれ供される料理は、それぞれ、熱いかけ汁をかける丼飯、桃の白酒かけ、イナ(ボラの小さいの)尽くしであらいと梅和え・竜田揚げ・押し寿司・イナ饅頭、江戸と上方の豆腐料理で、木綿豆腐を使った田楽と冷やうどん豆腐。
中でも聞いたことがないのが「イナ饅頭」で
(イナのワタをとり、背骨まで取り除いたものに)甘味噌の八丁味噌に、戻した干し椎茸と葱、人参のみじん切り、麻の実を加えて練ったもの・・を腹からたっぷりと腹に詰め
焼いたもので、本書によると「尾張」に伝わる料理らしい。
もうひとつは「冷やうどん豆腐」で
きしめんのように切った豆腐を、汲み立ての井戸水で冷やし・・煎り酒で煮付けに使う、味醂風味以外のもの、梅風味、鰹風味、昆布風味を倍に薄めてつゆに
したもの。どちらも、夏には気を引きそうなものではある。
本書で気になるのは、殺された岡っ引きの娘、美代吉親分と同心・田端の中なのであるが、その結末は素ご想像どおりではあるが、最後の方で明らかになる。一方で、最後でどんでんをくらわせられるのが、親切そうな顔に隠された、旧悪の顔というやつなのだが、このシリーズの悪人には珍しく、人間、年齢を重ねて守るべきものができると、骨の髄まで悪に染まっているのが、幾分か抜けていくのかね、というところ。
元許嫁・瑠璃の心を騒がせる”男性”が登場するのだが・・・ -- 「料理人季蔵捕物控 菊花酒」
最初、短編で始まった物語もシリーズ化してくると、だんだんと中編・長編となることが多いのだが、この料理人・季蔵シリーズも一冊で筋立てが完了するといった態になってきた。
さて、シリーズ第9弾の収録は
第一話 下り鰹
第二話 菊花酒
第三話 御松茸
第四話 黄翡翠芋
の4話。
まず、最初の「下り鰹」で、前作で昔、盗賊であったことが明らかになった亡き松島屋のところから珊瑚細工の簪が盗まれたところが判明する所から始まる。
どうやら骨董屋・千住屋の仕業らしいのだが、確証はなく、といったところだ。また、最初の「下り鰹」で、この巻の助演を務める内与力の清水佐平次に登場し、季蔵の武家時代の許嫁・瑠璃に気に入られた風で、季蔵が心穏やかでないところが次の話以降の微妙な布石になる。
料理は、江戸人が「猫またぎ」として下手に見ている「下り鰹」で、見事な料理をつくるもの。もっとも、下り鰹が脂がのって旨いのは現代では常識だから、まあここは季蔵の常識にとらわれないチャレンジ精神を評価するところ。
続いての「菊花酒」は最初、季蔵が春の筍料理に使う筍をいただく寺の住職の昔話から始まるので、てっきりそちらの方へ向うのかと思いきや、前話で登場する内与力・清水佐平次の家庭の話へと移っていく。
奉行はこの清水に裏稼業も手伝わせたい様子で、品定めが始まるといったところ。奉行が手土産にする「万福堂」の最中が次話への橋渡し。
三話目は、急に舞台が変わって、江戸市中に出回る「松茸」の市場流通を操る謀みにかかわる話。松茸の大産地である松原藩の若い江戸家老がでてきたり、菓子の最中を商う「万福堂」がこれに暗躍していたりとやけに騒がしい展開である。
「松茸」料理ということで、炊き込みご飯や吸い物、焼き松茸といったありきたりのものが多く、松茸を保存するための「塩松茸」や「干し松茸」あたりが珍しいところか。
最後の「黄翡翠芋」では、この巻で登場する清水佐平次と前話で登場する松原藩の江戸家老とか斬り合ってふたりとも死んでしまう。しかし、その骸が怪しげな僧侶によって持ち去られ、といった展開。この二人が「不滅愛」という紙切れをもっていたっていうのが、一連の珊瑚の簪をはじめとする秘宝の盗難事件と今回の二人の死亡事件の鍵なんであるが、「不滅」「愛」なんて言葉は通常の色恋沙汰では使わない類の言葉であるよね。
結局、松茸流通を闇で支配していた「万福堂」もこれに関連して頓死するのだが、本当の悪党はまだ見えて着ないところでこの巻は終了。「黄翡翠芋」ってのはどんな料理・・と期待するも、ちょっと肩透かしをくらわせられる。
ともあれ、季蔵と元許嫁・瑠璃との間で波紋を呼びそうな男は、最初さっそうと登場し、あっという間に露と消えてしまうのは、あっけないといえばあっけないのであるが、まあシリーズの安定的な展開のためにはやむを得んかもしれんですね。
10年前の殺人が発端となる、隠された秘宝をめぐる大量殺人 -- 「料理人季蔵捕物控10 思い出鍋」
第9弾で、秘宝探しにまつわっておきた事件の解決編が第10弾。9弾目の「菊花酒」の最終話「黄翡翠芋」の続きといったところ。
収録は
第1話 相愛まんじゅう
第2話 希望餅
第3話 牛蒡孝行
第4話 思い出鍋
の四話。
第1話で、塩梅屋が筍の調達で世話になっている光徳寺の和尚が教えている画の会でのトラブル相談が最終話の伏線として張られているので、ここは注意どころ、
さて主な筋は、二十年前の死骸が発見され、手がかりとなるのは、以前、流行した、饅頭に仕込まれてた陶製の「桜の印」。被害者は意外に早く判明して、10年前くらいに手代に金を持ち逃げされて潰れた「小田原屋」の手代・宗助であることが判明。これをきっかけに、宗助を殺した犯人探しが主筋として展開する。
犯人は、この金を持ち逃げした手代・七之助であることは結構早くに判明するのだが、この七之助が、やたら凶悪で、この事件に関わる人をやたらと毒殺するので始末が悪い。
ただ、この犯行の裏には第9弾の後半で出てきた「秘宝」探しが絡んでいて、それが光徳寺に関係しているようで・・、と言う感じで、最初の伏線が生きてくる。
そして、このシリーズは、一話ごとに凝った料理が出てくるのだが、今回は「牛蒡孝行」にでてくる
季蔵は、まず、人参だけは輪切りに、葱は小指半分ほどに切って茹でた。形の似ている巻湯葉も、ほぼ、葱と同じ大きさに揃える。小ぶりの椎茸は十字に切れ目を入れておく。(中略)あとの葉物はさっと茹でて、葉が一番小さい京葉を芯に、小松菜で巻き、最後に大きな葉の三河島菜でくるくると巻き上げ、食べやすい大きさに切っておく。こうすると、葉によって異なる緑の濃淡が美しい。後は鍋に青物と巻湯葉を入れ、大豆の絞り汁である豆乳に、出汁、昆布風味の煎り酒を加えて調味して火にかける
という「精進明日香鍋」が珍しいのだが、最終話で殺人の道具として使われていて、縁起の面ではどうかな、という次第であります。
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