長崎奉行を務めたこともある名門の大名家を訳あって許嫁とともに出奔した侍・堀田季之助が名を「季蔵」と改め、日本橋木原店にある一膳飯屋・塩梅屋を継いで、「刀」を「包丁」にもちかえて、料理に腕を振るうかたわら、町奉行所に協力して江戸の闇に潜む悪党をこらしめる料理人捕物帳「料理人季蔵捕物控」シリーズの第20巻~第21巻
おきゃんで美人の、武家出身の芸娘の運命は? -- 「料理人季蔵捕物控20 おやこ豆」
この巻を彩る新しい登場人物は、「さと香」という芸娘。二十歳前後ではあるが
白粉で塗り込められているせいで、顔こそ白かったが、弾むように若々しいだけではなく、きりっとひきしまった目元、口元に、妖艶さに同居した理知の輝きが見てとれた。
といった様子で、市中の浪人の娘らしいのだが、筆者の「好意的な視点」が感じられる、と思っていたら最後のほうで、どんでん返しをくらうので要注意です。
収録は
第一話 五月菓子
第二話 おやこ豆
第三話 夏うどん
第四話 生き身鯖
の四話。
第一話は、大伝馬町の呉服・太物問屋の京極屋の幼い跡取り息子・弥太郎が、今は妾となっている元乳母「おいと」の差し入れた柏餅で毒殺されるという事件。事件の陰には、「おいと」が身籠もっている上に、弥太郎が、おいとになついていることにくすぶった不満を抱いている、京極屋のお内儀・お加代の姿がちらちらする。事件の真相に、我が子の愛情を独占したい母親の姿が登場するところと、アレルギーをかけたところが今風であるか。
第二話では、「さと香」が塩梅屋の艶やかな新客として存在感を増してくる。
「さと香」は、浪人ではあるが寺子屋をしていた父に文の才能を期待されながら、芸娘になったことで感動されている身。
ただ、心底憎み合っているわけではない二人の仲をとりもとうする季蔵とおき玖の考案するのが、空豆の生姜和え、空豆の葛ひき椀、空豆と小エビの落とし揚げ、といった「空豆」づくしの弁当、といったところが出だし。
そして「さと香」のことに一所懸命になる季蔵を見て、季瑠璃の仲は諦めている「おき玖」の心中は穏やかでない、というところが隠し味。
事件は、御書院番小笠原家の家臣が、酔って倒れ、石に頭をぶつけて死んでいるのが発見されるのだが、小笠原家は犯人探しを執拗に主張してくる、というものなのですが、真相は第三話に続きます。
第三話は、第二話の小笠原家の家臣の頓死の顛末。この家臣、弱い者を脅しては金をせびる。美人の町娘を見つけてはちょっかいを出す、という鼻つまみ者。あちこちに敵はいるよな、と言っているところで、犯人として捕まったのは、「さと香」の実の父親、という展開。「さと香」の父親の、謹厳実直な武家らしさが見える話。
第四話では、武藤多聞と並んで、この話の主要な脇役になるんだろうな、と期待していた「さと香」にとんでもない災厄がふりかかる。やっぱり、この筆者は、美人の若い娘には厳しいな。
「さと香」はおきゃんな美人であるとともに、幼なじみが彼女におんぶにだっこという典型的なダメンズ・ウォーカーで、「ウォーカー」部分が何を意味するかは本書でお確かめあれ。
最終的には、季蔵のひさびさの裏の働きが出るのだが、第三話で殺された侍の隠された悪事や、以前、季蔵たちが手こずった、江戸の裏家業を仕切る「虎翁」の残党も出てきて、それなりに大きな悪事退治になる。
話の途中で、烏谷の想い人である「お涼」さんの格好良いエピソードが紹介されるが、この辺は次巻の「蓮美人」のところでも関係してくるのでご注意を。
さて、ひさびさに「美形」が登場して、これから派手になるよね、と期待をしていたら、作者に見事に裏をかかれました。若い美人に浮かれて、ふあふわするな、との戒めでありましょうか。
南町と北町の懇親が進むも、腕利き与力が過去の事件の犠牲になる -- 「料理人季蔵捕物控21 蓮美人」
前作で、当方的には気に入っていた逸材の「さと香」を喪ってしまって、ちょっと残念なところで、今巻でのゲスト・キャラは、名門出の南町奉行である。
収録は
第一話 風流鮨
第二話 禅寺丸柿
第三話 蓮美人
第四話 牡蠣三昧
の四話
第一話は、南町奉行が北町との融和を図るために、「親睦会」を開くというもの。
もともと、競い合いと汚職防止のために、南北両奉行所がつくられていたと思うので、「親睦」ってのは幕府上層部が面白く思わないと思うのだが、幕府も開府後経過すると、その辺は安きにつくという設定であろうか。
もっとも、作者のちょっと意地悪なところは健在で、名門出で気位の高い、南町奉行の家付き娘「律」様というキャラをつくっておくのは流石です。
事件の方は、塩梅屋が仕入れている鰹節問屋の土佐屋のお内儀殺しと黄金の煙管ほかの盗み、これに加えて、廻船問屋の大前屋の女隠居の殺しと金剛石の盗みである。
事件は第一話では解決せず、次話以降に続いていきます。
第二話は、第一話の事件の続きなのだが、二話目の注目点は、南町の同心・島村蔵之進。昼行灯という評判なのだが、なにやら「食えぬ」存在らしき様子を随所に見せます。
事件のほうは、土佐屋の主人が殺されて、さらに混迷という展開。
第三話の「蓮美人」では、第一話で登場した、南町奉行所の与力・伊沢真右衛門と北町奉行・烏谷とが旧友であったという意外なエピソードが語られます。
もちろん、こういうエピソードが出てくるのは、訳があって、伊沢が霊岸島で謎の自害をする訳と、烏谷の想い人「お涼」さんの過去のすきっとしたエピソードの呼び水。
「蓮美人」のいわれは、「お涼」さんが、外様の大藩の大名の側室にしようという企みを打ち砕くためにとった策に由来するのですが、詳細は本書で。
しかし、どの物語でも共通して「お涼」サマというのは別嬪で、しかも気っ風が良いものですね。
第四話の「牡蠣三昧」はこの巻で起きる事件の解決編。
死人はたくさん出るのだが、なんとも消化不良な解決のまま、最終話で決着をつける感じ。ここまで引っ張るからには、単純な欲得ずくの事件ではなく、伊沢真右衛門が以前関わった抜け荷事件を発端に土佐屋、大前屋を巻き込んだ事件の決着は、季蔵の裏の任務に任されるのだが、このついでに、昼行灯・島村蔵之進の隠された役目がはっきりします。
ただまあ、第四話の最後の方で、季蔵の仕事を邪魔をするような仕掛け矢も仕掛けられていて、次巻以降でなにやら陰謀の網がはりめぐらされていそうな今巻の終わりであります。
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