差配人の養い子は殺人事件を予見するー宮部みゆき「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」(角川文庫)

2018年11月3日土曜日

宮部みゆき

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 江戸・神田で袋物を商う「三島屋」の主人の姪・おちかが「黒白の間」で、訪れる客人から「不思議な話」を、「聞いて、聞きすて。語って、語り捨て」にする「三河屋変調百物語」の第三弾が『宮部みゆき「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」(角川文庫)』。



【収録は】

「魂取(たまとり)の池」

「くりから御殿」

「泣き童子」

「小雪舞う日の怪談語り」

「まぐる笛」

「節気顔(せっきがん)」

の六話で、物語の聞き手である「おちか」、黒白の間に次の間で魔除けを担う「お勝」のコンビも熟練を増してくるとともに、「おちか」の過去の忌まわしい思い出もようやく薄らいできた感がある。


【あらすじ】

◯「魂取(たまとり)の池」

第一話の「魂取の池」は地主・岡崎家の用人の娘・お文(もん)の祖母の話。地主の岡崎家がどんな家格の家なのかはわからないが、彼女が用人の娘ながら(端っこのほうらしいが)「分家の嫁」に嫁ぐことが決まっている、と設定にあるので、旧家中の旧家ではないが、分家を多数抱える、そこそこの旧家であることを示していて、話もそんな旧家まわりの家に伝わる話で、でっちあげ話ではないことを暗示している。

さて、話のほうは、「お文」の祖母の出身地の岩槻での出来事。

そこには「魂取の池」という池があり、夫婦とか許婚者どうしとか恋仲の男女とかが、池面に姿を映すと、男性の方にかならず別の女、しかも女性が嫌っている女とくっついてしまって中が壊れる、という伝説の池がある。お文の祖母は、その伝説をバカにして、当時恋仲だった男と二人で夜半に、池面に二人の姿を映すが案の定・・・、というのが話の前半。この話の絶妙なところは後半部分で、その後、気に入らないブサメンのところに嫁がされた祖母は、その男とその池を訪れ姿を映すが・・という筋立てで、前半と同じ展開を考えていると、どんでんを食らうのが楽しい。

◯「くりから御殿」

「くりから御殿」は白粉問屋・大坂屋の前の主人・長治郎の若い頃の話。今回は、彼のおかみさんが次の間に控えて、お勝と一緒に話を聞く、という変わり種の趣向。

話のほうは、長治郎の若い頃、彼の故郷である関西の小さな漁師町での話。彼の実家はここで干物問屋を営んでいたのだが、この町を、山津波が襲い、町のほとんどが壊滅してしまう。彼は当日の夜、寝小便をしてしまい、それを隠そうと家内をうろうろしていたため、山津波に気づき助かるが、彼の一家、幼馴染はすべて死んでしまう。

孤児となった長治郎は、網元の先代が隠居所としていた「山御殿」と呼ばれる屋敷に避難し、そこで避難生活を始めるが、そこで、幼馴染や家族の夢を見るたびに、夢を見た人の遺体が翌日発見される、という不思議が連発し・・、といった展開。

題名の「くりから」というのは、彼の死んだ幼馴染が、「からくり」を「くりから」と間違って覚えてしまったことに由来していて、木曽義仲由来の「倶利伽羅峠」とは関係がないので念の為。

話のキモは、山御殿でおきる不思議譚よりも、最後の方のたった一人残され、齢を重ねてしまった長治郎の想いと長年添い遂げた老妻とのやりとりが心に沁みます。

◯「泣き童子」

三話目の「泣き童子」は、霜月というので、今の頃で言えば11月下旬から1月上旬の頃。物語の冒頭は、三島屋名物の「ねずみ祭り」から始まるのだが、話の方は、この祭りとは関係ない。むしろ、霜月の寒さのほうが関連深い話である。

筋立ては、ねずみ祭りが無事終わった、三島屋へ、飛び入りの「百物語の客」、ひどく痩せて、髪も真っ白、ぼろぼろの障子紙のような皮膚をした、ひどく年寄りに見える、しかも「死んで浮き上がってから二日も三日も経って、そのまま腐っていくような鯉の目」をした男の訪問から本題に入る。

この男は、差配人いわゆる大家をしていて、彼の店子の看板屋が捨て子だった男の子を育てているのだが、この童子が三才になっても口をきかない。看板屋が案じていると、突然、ある人物(その看板屋の職人の一人)がそばにくると大泣きするようになる。なぜかと思っているうちに、この看板屋は、その職人の手引きで強盗に襲われ、一家が皆殺しとなってしまう。

一人助かった、この童子を引き取った、話し手の大家は、この童子が不思議な力を持っているのではと思い始めるが、そのうち、娘の「おもん」が色恋沙汰で、相手を刺し殺すという事件を引き起こし・・、といった展開。

この童子のその後と、「おもん」の子供にまでつながる話で、夏目漱石の「夢十夜」(文鳥・夢十夜・永日小品 (角川文庫クラシックス))の第三夜を連想させる展開でありました。

この男の突然の訪問は、三島屋の小町娘が百物語を集めているという瓦版がでたのがきっかけで、これは、今後、黒白の間を訪れる客の性質にも影響しそうですね。

◯「小雪舞う日の怪談語り」

第四話目の「小雪舞う日の怪談語り」は、出入りの岡っ引きの黒子の親分の誘いで、札差の井筒屋の主催する「怪談語りの会」へ出席する話。

そこで語られるのは、逆柱による新築の家に起きた怪異や野州の村にかかる橋上で転ぶと異世界へつれていかれるという言い伝えの話、疱瘡によって見えなくなった右目で人に病が取り付いていたり、取り付く運命にあるかが見える母親の話、あるいは、悪どさで有名だった岡っ引きが、犠牲にした人々の恨みで、黒く変色して死んでいくまでの話とか、それぞれに気を引く話が展開されるのだが、一番の出色は、三島屋に新たに奉公にきた幼い「おえい」を案じる故郷の小仏さまのくだりでありますね。

◯「まぐる笛

第五話の「まぐる笛」は、山獣の話。

「山獣」といっても、熊とかイノシシといった類ではなくて、

それは大きかった。身体の厚みと形は、ちょうど釣り船をひっくり返したようだが、釣り船より優にひとまわりは大きい。頭が補足、胴が太くて、尻の方にいってだんだん細くなる。身体はだんだらの草色で、喉の下から腹にかけては青白く、ぷっくりと膨れて垂れ下がり、地面を擦っている。

今、その腹を持ち上げるようにして胴震いしながら、それは裏山から全身を現した。ついでに、口の端にぶらさがっていたあの藍染めの袖を、邪魔くさそうに振り捨てた。

ぱっと血が散った。あの袖には中身が入っている、さっきの若者の腕が。

といったように、人の肉だけを食らう「怪物」である。

この化け物は、刀槍や鉄砲といった武器ではダメで、「おちか」のもとに百物語でやってきた浅黄裏の侍・一朗太の母親が受け継いだ「技」でしか退治できないということなのだが、こういう「技」を受け継いでいかないといけないというのも因果なものでありますね。

本編は、筆者の「荒神」にプロトタイプのような位置づけのような感じですね。

◯「節気顔(せっきがん)」

最終話の「節気願」は、放蕩者が最後に行き着いた「善行」といえなくもない物語。この百物語の一作目の「凶宅」で登場したこの世とあの世の間をつないで商売をしている<商人>の所業の一つ。

筋立ては、放蕩が過ぎて食い詰めた男が、その<商人>と取引をして、節気の都度、この世に思いを残して死んだ人々の「顔」を憑依させて、供養をする話。本筋とは別に、この<商人>が良きものか悪きものか、ちょっと分からなくなってきますね。


【レビュアーから一言】

いつもながら、安心して楽しませてくれる「宮部ワールド」なんであるが、この百物語シリーズも三作目となって、「おちか」の活躍ではなく、黒白の間にやってくる客人の「怪異譚」が本当の中心になってきた。その意味で、主人公は、「おちか」から「黒白の間」そのものになってきたのかもしれない。

なにはともあれ、この「黒白の間」で語られる不思議の数々を、楽しもうではありませんか。


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