「勘定吟味役異聞」シリーズで、将軍家宣の寵臣・新井白石に見出され、綱吉時代から行われた勘定奉行や豪商などによる幕府内の様々な不正を暴いてきた水城聡四郎が、今度は新将軍の徳川吉宗に見出され、「大奥」を相手に大暴れするのが、この「御広敷用人 大奥記録」シリーズである。
「大奥」に巣食う「わがまま」と「贅沢」をやっつけろ ー 「御広敷用人 大奥記録1 女の陥穽」
【構成と注目ポイント】
構成は
第一章 将軍の座
第二章 砂の天下
第三章 蠕動の始
第四章 化粧の裏
第五章 街道の争
となっていて、シリーズの第一巻であるので、若干、設定や時代背景や人間模様の説明が妙に詳しい。さらに、この作者は時代考証であるとか、登場人物のエピソードとかの記述で脇道にそれることが多いのは定評があって、このへんに好き嫌いが出るようなのだが、吉宗が分家から本家に入って将軍位を継いだあたりは、周囲の人間模様も複雑怪奇な上、吉宗や新幕閣に対する感情も好悪両極端にあったはずで、ここらの雰囲気をつかんでおくには、少々クドいほうがよい。
さて、物語の方は、まず、第一章で、吉宗が早速に、女中を減らすと言い出して、大奥へ喧嘩を売り始め、その先鋒役として水城聡四郎を「御広敷用人」に任命するところからスタート。この女中を減らすというのが、吉宗の大奥改革の第一歩として知られる「美人は嫁入り先があるから、彼女たちから暇(いとま)をとらせる」というものなのだが、もともとの「女中を減らす」のは問答無用というのが、ワンマン経営者らしいところでる。
もっとも、減らされる方も、黙っていなくて、吉宗の廃位の策謀を巡らすし、それに乗っかって、将軍位を狙う親戚筋もでてくるのが、「時代劇」らしいところで、まあ、こうでないと物語は踊っていかない。
しかも、まず将軍位を狙い出すのが、吉宗の出身である「紀州」というのが、皮肉なところでありますね。もっとも、将軍位争いで次巻以降で主役として出てくるのは、天英院が推した六代将軍家宣の弟の館林藩主であるんですがね。
そして、話の主筋のほうは、御庭番に探索方の仕事を奪われた、御広敷の警備をする「御広敷伊賀者」の組頭・藤川が、水木聡四郎がさらに伊賀者の権限を削ろうとして赴任してきたと誤解して彼を襲ったところから、シリーズを通じて生命をかけた闘いを繰り広げていくのに、天英院と月光院の大奥主導権争いと、将軍の廃位の謀略が絡んでいくという展開であるのだが、この巻はまずはその滑り出しのところまで。
【レビュアーから一言】
将軍吉宗の治世というと、数々のTV番組や映画などで、反対派をあっという間にやっつけてしまって、その上で江戸市中の治安を守るといった「暴れん坊将軍」のイメージが強いのだが、そこに至るまでには、彼を「紀州の猿」と田舎者扱いして、自分の権益を守ったり、言うことをきかせようとする大奥であるとか、幕閣などとの辛抱強い「闘い」があったのね、と印象深いシリーズの開始である。
吉宗自体も切羽詰まった状況なので、吉宗も人使いが荒く、先頭で戦わされる「水木聡四郎」も大変だね、というところなのだが、次から次へとふりかかるトラブルを、聡四郎がガンガン立ち向かっていくのが、このシリーズの読みどころでもある。敵役にイライラしつつ、彼に降りかかる事件にハラハラしながら読み進めてくださいな。
聡四郎、「竹姫」の秘密の調査で京へ行き、ついでに会津の秘密にも出くわす ー 「御広敷用人 大奥記録2 化粧の裏」
前巻で、八代将軍・吉宗の命令で「御広敷用人」となった水城聡四郎であったのだが、吉宗の人使いの荒さが早速にでて、大奥に逼塞する「竹姫」の秘密を調べるため京都行を命じられる。 当然、単なる調査に終わるわけがなく、前巻で相手の誤解から因縁の仲となった伊賀者との間は、相手方の江戸伊賀者の組頭・藤川が伊賀の郷に住む「郷忍」に水城の暗殺を依頼することによって、彼の暗殺を企む者たちが大幅に拡大していく、といったのが今巻。
忍の暗殺行動は、人数も増えてくるし、今回は、京都、桑名といった旅先での暗殺が企まれるなど、ますまず大掛かりになってきているので、かなりのアクションシーンが楽しめる出来である。
【構成と注目ポイント】
構成は
第一章 都の人々
第二章 忍の掟
第三章 公武の隔
第四章 湊の攻防
第五章 過去の闇
となっている。
まず、第一章では、綱吉の養女で、その死後、「捨てられた姫君」となった「竹姫」が京から江戸へ下向した理由を調査に出向くのだが、そこで伊賀者との争いがおき、これがこのシリーズを通じての「伊賀者」たちとの闘争のスタートとなる。もともとは大奥の御広敷伊賀者の組頭・藤川が、伊賀の郷へ、聡四郎の抹殺を依頼したからなのだが、その刺客の忍を聡四郎が倒したことで、伊賀の敵とされて生命を狙われることになるというもの。伊賀者を殺した者は伊賀全体の敵として倒さないといけない、という「掟」で、かなり自分勝手な「掟」なのだが、これ以後も重要な行動規範となる設定になっているので覚えておいてくださいな。乱闘シーンは主に第二章で、ここははらはらしながら、聡四郎や玄馬の活躍を応援してください。
第三章は、京都で公家相手のなれないお役目を、なんとかかんとか聡四郎がこなすところと、吉宗が「竹姫」と会食して、さらに惚れてしまうというところがメイン。この吉宗の想いから、近衛、一条といった有力公家たちの権益争いに火がつくのだが、この巻ではまだ付け木に火がついたところで燃え盛るのは、もっと後の巻になってから。
第四章のメインは、聡四郎が京都での役目を果たし、帰路の途中の「桑名」での伊賀の郷忍との戦闘シーン。街道での戦闘から。引き続いての渡し船の船上での戦闘と、舞台を移しながらのアクションは読み応えがありますね。
最終章の「過去の闇」では、竹姫が江戸へ来た理由とあわせて、彼女の最初の結婚相手になるはずだった、会津藩主の嫡子・久千代が急死した裏におかしなことがないか調べていくうちに、会津・保科家の保科正光の子どもたちの変死が妙に多いという謎に気づく。謎の影にあるのは、お家相続にからむ女性の執念と妄念であるのだが、言葉が過ぎると世の女性たちに叱られるので、詳細は原書で確認を。聡四郎たちが、今回は会津の武士たちに襲われないところをみると、昔の忘れられた話になっていた、とのことでしょうね。
この章の最後のほうで、大奥の「開かずの間」を守る「女番衆」というのが登場。五代将軍・綱吉の頃におきた出来事がもとで「開かずの間」ができ、それが大奥存続の秘密に関わるらしいのだが、その内容はずっと後の巻にならないと出てこないので、今巻では「女番衆の世津」という名前程度を覚えておけばいいと思います。
【レビュアーから一言】
大奥を警備する伊賀者、大奥の天英院、月光院、竹姫、天英院付きの中臈・姉小路と今シリーズのメインとなるキャストがだいたい登場したのが今巻。 大奥を舞台にはしているのだが、京都への調査行での伊賀者との闘争など、時代劇には欠かせない「アクションシーン」「武闘シーン」もしっかりと用意されているので、昔からの「上田秀人」ファンだけでなく、時代劇初心者にも楽しめる展開となっている。
忍や大奥の歴史や、会津・保科家の毒殺事件など、歴史的なウンチクもたっぷり入っているので、お好きな方はしっかりと、歴史にさほど興味のない方はつまみ読みしながら楽しんでくださいな。 最後のところで、美貌の女忍・袖も登場するので、次巻のお楽しみに。
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