聡四郎の今度の任務は街道の監察ー上田秀人「旅発 聡四郎巡検譚 1」「検断 聡四郎巡検譚 2」((光文社文庫)

2019年6月23日日曜日

上田秀人

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 「勘定吟味役異聞」「御広敷用人 大奥記録」に続く、「水城聡四郎」シリーズのSeason3。いままで、幕府の小判改鋳や火事の復旧にからむ利権、あるいは将軍位をめぐる柳沢吉保の野望、大奥の支配権を巡っての天英院と月光院の権力争いと竹姫の御台所就任プランなど、新井白石、徳川吉宗という時の権力者の命を受けて、幕府内の様々な悪事を懲らしめてきた聡四郎に「道中奉行副役(どうちゅううぶぎょうそえやく)」という新たな任務が与えられ、全国の街道筋の疑惑と闇を晴らしていくのが今回のシリーズ。


設定的には、前回までを引き継いで、前シリーズで生まれた娘の「紬」も、妻の「紅」、そして一放流の師匠・入江無手斎も元気なのだが、今回の舞台は江戸から外へ旅立っていくので、紅や無手斎の加勢や、江戸城内にいる吉宗の援助も直接には受けられない、まさに「聡四郎個人」の力が試されるであろう新展開の開幕である。


聡四郎の今度の任務は街道の監察。前作以上の大バトル招来か・・ ー 「聡四郎巡検譚 1 旅発」


【構成と注目ポイント】


構成は


第一章 安寧の終わり

第二章 闇に忍ぶ

第三章 ことの始まり

第四章 街道の風景

第五章 東西明暗


となっていて、まずは、吉宗によって聡四郎が「道中奉行副役」に任じられるところからスタート。この役目は本書中の吉宗の言葉によると「東海道、中山道などの主要街道を見て回る役目じゃ。いわば街道巡検視だな」というもので、吉宗が聡四郎用に新設した職であるとの設定。まあ、彼が江戸から出て自由に街道中を歩いて、揉め事にあたるにはもってこいで、その揉め事には当然、闇の勢力や、刺客たちとの「バトル」も盛り込まれるだろうから、前シリーズ以上のアクション・シーンが期待できる筋立てですね。


で、今回の「敵」となるのが、ひとまずは「目付」。(「ひとまず」と書いたのは、このシリーズでは途中で敵がバージョンアップすることがあるからね。)「目付」というのは、江戸幕府では旗本や、御家人の監視や役人の勤怠など幕政全般を監察する役目で、ここを登竜門にして、長崎奉行とか町奉行、勘定奉行に出世するのが多かったとのことなので、頭も切れて、上昇志向の強い人が集まっていたんだろうな、と想像できる。そこに水城聡四郎みたいなのが、いくら将軍・吉宗のお気に入りだからといって、横から街道の監察役を「新たに」任じられるというのは、彼らのエリート意識を逆撫でしますこと間違いない。自分の権限を侵食されそうになっったときのエリート役人ってのは、すごい抵抗をするのは、最近の財務省とか厚生労働省の事件をみればわかりますね。


また、「道中奉行」は「大目付」と「勘定奉行」の兼職となっていて、どちらも本務が忙しい上に、江戸から外へ出られる職ではない。実務はそ勘定奉行配下の与力や遠国奉行や街道筋の大名が、自分の思うがままにやっていた、ということでろうから、ここらは聡四郎が首を突っ込んできては困る事情もありそうですね。


そのうえに、前シリーズで、聡四郎によって江戸城から追い出された、伊賀者の親玉・藤川義右衛門も京都の闇の支配・利助と組んで、江戸の闇の中で勢力を伸ばしてきている。彼は吉宗に恨みをもっているから、当然、聡四郎の動きを知れば暗殺しようと乗り出すのは間違いない、という「表」の江戸幕府の役人からも、「裏」の伊賀の抜け忍や闇の勢力からも狙われるという、大バトルが期待できるSeason3であります。


今巻も品川で聡四郎を見送った「紅」と「無手斎」が利助の配下に狙われたり、箱根を越えるところで、聡四郎一行が伊賀の抜け忍たちに襲われたり、と早速のバトルのスタートである。さらには、目付の一人が、目付の先輩の「駿府町奉行」に聡四郎たちの始末を頼むなど、次巻以降への手配もしっかりとされていますね。


【レビュアーから一言】


今までのシリーズは、聡四郎の役目が江戸城内を中心としたものであったので、京都や江戸から京都へお道筋の探索などは少しはあっったが、江戸を離れての展開はあまりなかった上に、刺客も、伊賀者や御三家の配下といったところが主であった。今回は、江戸の外が主エリアとなるし、聡四郎の前へ立ちふさがるのも、「目付」出身の遠国奉行や、幕府に探られると困ることはたくさんある街道筋の諸藩、そして江戸と街道筋、京都の闇の支配者と多士済々である。聡四郎と玄馬がどんな大立ち回りを演じてくれるか、期待が膨らみます。


吉宗を狙う新たな陰謀勃発。聡四郎へは伊賀から意外な申し出が・・ ー 上田秀人「検断 聡四郎巡検譚 2」


勘定吟味役、御広敷用人という重任を果たした後、「世間を見てこい」と徳川吉宗によって新しい職「道中奉行副役」という何をしていいのかわからない役目に任じられた水城聡四郎の活躍を描く「聡四郎」シリーズの3season「聡四郎巡検譚」の第2弾である。

シリーズ最初の頃とあって、幕府内の旧勢力である「金」「女」の続く新たな敵の姿は、跳ねっ返りの「目付」以外はまだはっきりとはしてこないのだが、相変わらずの聡四郎一行の命を狙う企みに加えて、吉宗の命を狙う企みも芽生えだし、波乱の幕開けの香りただよう本巻である。

【構成と注目ポイント】


構成は

第一章 幕臣の夢
第二章 駿河の城下
第三章 それぞれの想い
第四章 刺客百景
第五章 掟の終わり

となっていて、まずは、吉宗の幕府改革案を潰すため、聡四郎を片付けようと企んでいる目付・野辺三十郎の命令を受けた徒目付・小高三郎が、密書を駿河奉行へ届けるところからスタート。

途中、東海道に追い剥ぎを簡単に撃退したりして、これは聡四郎の強敵になるかも、と思わせるのだが、駿河奉行と妙な妥協点を見出してしまうあたりでちょっと安心したり肩透かしであったり。
まあ、このへんは幕府内の超エリートである「目付」の世間知らずさと傲慢さといったところが強調されて、聡四郎びいきにする手法ではありますね。

話の展開は三筋に別れていて、一つは聡四郎の駿河を経て、桑名・甲賀までの旅中での出来事。一番大きなのは、伊賀の郷の忍たちが、聡四郎一行への和睦の申し出をしてくるあたり。ただ、彼の仇敵である御広敷伊賀者の元頭領・藤川はまだ聡四郎の命を奪うことを諦めていないので、江戸では油断は禁物であることは変わりない。ここの玄馬の恋人の女忍「袖」の妹が出てくるのだが、本シリーズでどういう役回りを務めるかは未知数ですね。

もう一つは、野辺三十郎を裏切った徒目付によって、野辺が聡四郎を暗殺しようとした情報が吉宗のもとへ届けられたことを知った「野辺」が目付の地位の復活と己の保身を図ってあれこれと画策し始める筋立て。吉宗の反逆者への苛烈さは知っているのに、ここらで見切りをつけて命と家の安泰を図るといったことができないのは、旗本のエリートであるプライドのためであろうか。さらに、継友の企みに勘付きながら、他の目付の協力もとりつけないあたり、個人プレーで泥沼に入っていく、現代のエリートビジネスマンでも見かける姿である。

最後は、吉宗と八大将軍の座を争った尾張藩の七代目・徳川継友の吉宗暗殺の陰謀が動き始めるというもの。この継友という人物、八代将軍争いでは、幕閣も大奥も朝廷も最有力と見られていたのだが、天英院によって土壇場でひっくり返された(上田秀人さんの「御広敷用人」シリーズでは家宣の側室の月光院となってますね)という経歴の持ち主なので、吉宗への恨み骨髄といったところであるのだが、少々計画がずさんな気がいたしますね。何事も、自分の力を過信して意気込みだけが先行するのはよくないようであります。
もっとも江戸城内に尾張藩士がづかづかと入ってしまえる城の警備というのもどうかな、とは思いますが・・・

【レビュアーから一言】


本巻は次巻以降の大波乱に向けての「種まき」と「環境整備」というところですね。ちょっと残念なのは、聡四郎を狙う旧勢力の「目付」の野辺三十郎の動きが以外に広がっていかないこと。協力してくれる目付が増えるわけでもなく、さらには部下や先輩にも見放され、という状況で、このあたりはエリートの脆さといったことを感じるのでありますが・・・。

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