時代物の女性主人公とくると、以前は、武道の達人で男装していて、とか、親の敵討ちを志す美しい○○とか、ってのが定番であったのだが、この作品が「女性料理人」という新しい時代小説のジャンルを開いたことは間違いない。
この作品の主人公「澪」は、故郷の大阪で水害にあって天涯孤独の身であったのが、大阪の名店「天満一兆庵」に拾われる。ところが、その家も零落し、今は、一兆庵の御寮さんと江戸の片隅の小さな蕎麦屋「つる家」の雇われ料理人。
で、この娘が実は絶世のなんとか、ってな訳はなくて、下がり眉の、どちらかといえばおかめ顔の娘なのだが、料理にかける情熱と、開花していく才能は・・・、ってなところが特徴的である。もっとも上方と江戸の料理、味の違いに苦労しながら、数々の名物料理を生み出していく、まあ、有り体に言えば、娘料理人の成り上がり的「成長物語」である「みをつくし」シリーズの第1弾が本書『高田 郁 「みをつくし料理帖 八朔の雪」(時代小説文庫)』である。
【収録と注目ポイント】
収録は
「狐のご祝儀ーぴりから鰹田麩」
「八朔の雪ーひんやり心太」
「初星ーとろとろ茶碗蒸し」
「夜半の梅ーほっこり酒粕汁」
の四話。
第一話の「狐のご祝儀」は、牡蠣の土手鍋に関西風の白味噌を使って不評を買った澪が、心機一転、出しがらを使った料理を考案、すこしづつ、まわりに認められてくるあたりのお話。
このシリーズの出だしの話よろしく、つる家の主人である種市とか医師の源斉、浪人風なのだが曰くありそうな小松原さま、といったメインキャストや、澪がこの店で働くようになったいきさつが語られる。
「八朔の雪」は、季節は夏。「あさひ太夫」という、澪とこれから、いやこれまでも関わりの強い花魁の姿がそこかしこに現れ出す。
話の主流は、澪が孤児になった頃の様子、その頃の八卦見による「雲外蒼天」の見立て、天満一兆庵と澪が料理人になったいきさつなどなど、大阪時代が中心に語られる。
「初星」は「つる家」の主人、種市が腰を悪くして、いよいよ、澪が「つる家」を飯屋、料理やとしてもり立てていく話が始まる。
季節は旧暦の長月ってな設定なので今の9月下旬から11月の始めあたり。そろそろ暖かいものが欲しくなる頃だ。で、その雇われ店主兼料理人として、店の看板になる料理の考案が始まる。店は、酒は出さない、と決めたので、色気に頼るわけにはいかず、料理、しかも飯屋だから、高価でない、というのが条件。
最初に考案したのは、戻り鰹を使った「はてなの飯」、ところが競争激しい江戸のこと、類似品を出す店が出現。さ、澪の次なる名品は、「とろとろ茶碗蒸し」、さて、その料理とは・・・、ということで、詳細は本書を読んで欲しい。
最後の「夜半の梅」は、「はてなの飯」や「とろとろ茶碗蒸し」で評判を取り始めた「つる家」が、名店になりつつがあるが故の苦難を引き受け始める話。
なんと、料理番付で最高位の料理屋「登龍楼」が近くに新店を出してくる。しかも名物料理は「茶碗蒸し」。新店のつらさを感じているうちに、店は付け火で焼失。危うし、澪、ってな筋立て。
まあ、このシリーズ、次もあるので店は再興に向かっていくのだが、そこへ向かっていく澪の健気さと新作料理をこんな状況下で考案するたくましさは、小気味よくって良いね。
やっぱり時代物てのは、読んで元気がでなくちゃいけない。あと、「あさひ太夫」の正体もわかってくるのも、第4話の大事なところ。
【レビュアーから一言】
料理をテーマにした小説は数々あるが、このシリーズでは、澪がつくる料理のレシピが掲載されているのも斬新な取り組みであった。もっとも、レシピが載っているからといってつくれるわけではないのですが、「料理心」を刺激されることは間違いないですね。
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