澪は嗅覚喪失の窮地を脱するが、大きな「犠牲」が・・ ー 高田郁 「みをつくし料理帖 夏天の虹」

2020年1月14日火曜日

高田郁

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 上方出身の「下がり眉毛」の女性料理人「澪」が、江戸の小さな料理屋「つる屋」を舞台に、その料理の腕で評判を上げていく「成り上がり」ストーリー「みをつくし料理帖」の第七弾が『高田郁 「みをつくし料理帖 夏天の虹」(時代小説文庫)』。

前巻で、今まで江戸城内の御膳奉行を務める旗本と、市中のしがない小料理屋の料理人ということから、恋の成就なんてことは諦めていたものが、武家の養女になることによって添い遂げることができるかもしれない、という望外のことがおきたのだが、さて、澪はこのまま、小松原と一緒になるのか、といったところが描かれるのが本巻。


【収録と注目ポイント】

収録は

「冬の雲雀ー滋味重湯」
「忘れ貝ー牡蠣の宝船」
「一陽来福ー鯛の福探し」
「夏天の虹ー哀し柚べし」

となっていて、まず第一話の「冬の雲雀ー滋味重湯」では、小松原と一緒になる道を選ぶのか、料理人の道を選ぶのかどちらを澪が選んだのか、といったところが読みどころになる。澪の周囲のつる屋の主人や旧主人の芳も、澪が小松原へ嫁ぐために料理人の道を諦めることを納得しているのだが、一人、澪だけが「料理」の道を諦めきれない、といった筋立てですね。


ネタバレをすると、澪は結局は料理人の道を選ぶのだが、そう告白された小松原が、自らの評判を落としても澪を守る潔い男っぷりを見せますね。とはいうものの、これで大団円といかないのが、世の常で、澪の仇敵・登龍楼は、吉原の中に支店を出して評判をとり、澪が店を辞めるためしばらく店を休んでいた「つる屋」は、今まで「関脇」の地位にあった「料理番付」から陥落してしまう事態となります。


第二話の「忘れ貝ー牡蠣の宝船」は、小松原との恋を諦めた上に、料理番付からも陥落した澪が再び、料理人として復活する狼煙をあげていく話。その「狼煙」として、彼女がつくるのが、松江の奉書焼きにヒントを得た、

鍋に水を張って昆布を浸し、柔らかくなったらすぐに引き上げる。戻した干瓢で両端を縛り、指を入れて底を広げた。
(略)
「船形にしようってぇのか」
(略)
船の底にあたる部分に、牡蠣の剥き身を並べて、そのまま七輪の網に載せた。火に炙られて昆布が芳しい匂いを漂わせる。頃合を見て、酒をほんの少し振りかけた。じゅわっと湯気が立ち、昆布に守られて牡蠣が酒蒸しになる。

という名付けて「牡蠣の宝船」。蒸して熱くなっている牡蠣ってのは、なんとも日本人の食欲を刺激するもので、ここは江戸の人も変わりなく、あっという間に「読売」に取り上げられるほどの人気料理になるって展開ですね。

こういう人気商品がでると、たちまち偽物や真似したものが登場する、ってのは昔も今も変わらないもので、あちこちでこの「宝船まがい」が提供されるようになるのですが、それに対する澪の態度がエラいですね。彼女も一人前の「凛」とした料理人になりましたね。


第三話の「一陽来福ー鯛の福探し」は、第二話のヒット商品を考案しつつも、小松原との恋が叶わなかった悲しみが精神を痛めていたのか、澪の嗅覚と味覚が突然きかなくなってしまいます。

この二つの感覚が麻痺しているということは料理人として致命的で、「つる屋」の料理もこれまでか、という危機を迎えるのですが、つる屋の主人・種市が、あさひ太夫のいる郭の楼主と交渉して、なんとか窮地を凌ぐことができるのですが、これが次話の悲劇の前振りとなってますね。


第四話の「夏天の虹ー哀し柚べし」は、相変わらず澪の嗅覚と味覚が戻らないところからスタートします。臨時の「三方よし」の日も終わって、あさひ太夫のいる「翁屋」から手伝いに来てくれている料理人・又次が吉原に帰ろうとしたところで、吉原が火事、という報せが入ります。


急遽、方次と澪が吉原にかけつけると、焼け落ちそうになっている翁屋に「あさひ太夫」こと「野江」が取り残されているとのこと。彼女を救うため、又次は火の粉が舞う楼内に飛び込んでいき、彼女を救い出すのですが・・・といった展開で、ここから先は原書で。

ネタバレを少しすると、澪は、この火事のときに嗅覚を取り戻すのですが、その代わりに大事な人と分かれることとなる、ってところですね。


【レビュアーから一言】

第三話で、つる屋にやってきていちゃもんをつける侍たちに又次が、「大きな平皿に篠の葉を敷き詰め、そこに帯のままの昆布と小皿に盛った塩を並べ」たものをもっていって、彼らを脅しつける場面があるのですが、これは「切腹の前には篠の葉を掻い敷にして、昆布の帯と塩を肴にお酒を呑ませるのが作法」というのが下敷きにあるようですね。

第二話の宝船も昆布を使っているのですが、舟形にしたのが幸いしたようで帯のまま使っていたら、武家からどんないいがかりをつけられたかわからなかったのを危うくくぐり抜けた、というところのようです。澪はあちこちに不運な目に合うのですが、大転落とまでいかない、不思議な運の強さをもっているのかもしれません。


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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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