「青い左目」の力で妖より”黒い”「人間」の姿を暴けー廣島玲子「失せ物屋お百ー首なしの怪」

2020年10月15日木曜日

時代小説

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 江戸の貧乏長屋に住む、魔力をもった「青色の左目」を使って、訳ありの「失くしもの」や、いわくつきの「捜しもの」を見つけ出す「失せ物屋」を生業とする

年増の美人ながら、気も強ければ口も悪いし、酒癖もわるい「お百」と、山神の鱗を探すため江戸へやってきたのはいいが、雑鬼に襲われて行き倒れているところをお百に助けられた子狸の妖怪・焦茶丸が繰り広げる物語「失せ物屋お百」シリーズの第二弾が本書『廣島玲子「失せ物屋お百ー首なしの怪」(ポプラ文庫)』です。


第一巻の終わりで、山神さまの「鱗」を手に入れていったんは、山へ帰ったのですが、お百の左目の「鱗」をもらう約束を守るため、再び、江戸へ出てきた焦茶丸。お百の身の回りをする生活も板についてきて、彼女と二人での「失せ物屋」家業が本格化するのが本巻です。                                          

構成と注目ポイント


盗まれた人形に心を宿らせるな


第一話目は、お百と同じ長屋に住む人形師の「左近次」のところから、盗み出された人形が巻き起こす怪異です。この左近次と言う人は、まさに人形づくりの権化友」言える人で、人形に使う材料のためなら墓暴きもするような職人なのですが、彼のところから若い男の人形が盗まれたということです。彼の長屋から人魚欧を盗んだのは、染め物問屋の娘なのですが、彼女は失恋した男に似ている人形を思わず盗み出して、自分の部屋に匿ったという次第です。「匿った」という表現をしたのは、盗んでから、その娘は人形と添い寝をしたり、動物の血や胆を入れたりして、人形に生気を吹き込んでいたからですね。

そして、「青い左目」で人形のありかを透視した、お百と左近次は、そこへ乗り込んで、人形に人間の生気を入れようと、人殺しをしようとしていた娘を阻止することに成功するのですが、そこで、人形が娘に向かって行った言葉で、娘の精神が破壊されるのですが・・・といった展開です。


妖怪に偽装した殺人犯たちの末路


第二話では若い男が連続して首を斬られ、生首がもし去られるという事件が連続しておきます。江戸のひとびとは、「首なし鬼」の仕業だと噂するのですが、自分も化け物である「焦茶丸」によると、首なし鬼は、肉がすっかり落ちたドクロを持ち帰ることはあっても、生首を持ち帰ることはないはず、と主張します。

実は、今回の事件は、殿さまの命令で、殿さまのもとから逃げ出した美男の小姓を上意討ちしないといけない武士たちの仕業なのですが、捜査にあたる同心から依頼を受けた「お百」たちが、この連続殺人の犯人たちに下した罰は・・・という筋立てです。ネタバレを少ししておくと、お百たちは同心だけでなく、殺人の濡れ衣を着せられている妖怪からも依頼を受けていたようですね。


忘れていた「恋」の証が蘇る


第三話は、菓子の老舗・仙桃屋の次男・仙次郎が見る夢の謎解き。彼は最近、暗く荒れた海と、白く穏やかな浜辺の境で、波の中から二つか三つぐらいの顔が傷だらけの少女が髪も着物もずぶ濡れの状態で現れ、彼のほうへ助けを求めるように手を伸ばしてくる夢を何度も見るようになります。彼は4年前に橋から川に落ちて生死を彷徨った経験をしていて、そのころの記憶はいくつかが飛んだまま、という状態です。

彼は、お百が住んでいる長屋の大家・銀子と碁仲間なのですが、彼がその夢のことが気になっているのを見て、お百にその夢の謎をとくよう言いつけてきます。お銀のことが恐くてしょうがない「お百」は、仙次郎の夢の中にダイブするのですが・・という展開。記憶を取り戻した仙次郎の対応がなんとも人情があって、いいですね。


お百、左目の鱗を狐に狙われる


第四話目は、お百が、焦茶丸の知り合いの白狐に、彼女の左目に入っている「山神の鱗」を狙われる話。前巻の神隠し事件で、偶然手に入れた「山神の鱗」を持って帰って、山神さまから褒められた焦茶丸に嫉妬した、彼のライバルの白狐が、お百の左目の「鱗」を狙って、彼女を騙して古井戸に落とし、衰弱させて、鱗を奪おうとしてきます。井戸に落ちた痛みで身動きできないお百を救ったのは・・・という展開です。今回の件では、いつも焦茶丸を、叱り飛ばすお百もしばらくは頭が上がらないようですね。


可愛い顔の裏にはサイコパス


第五話目は、廻船問屋の娘に関わる案件なのですが、第一巻で、自分を母親と思い込んで妻を虐待死させていた脂問屋の若主人の事件を解決したのですが、今回は正真正銘の「サイコパス」に出会います。お百のところに、廻船問屋の逆波屋の主人が彼の娘「ぬい」を連れてやってきて、娘の「正気」を探してほしいとやってきます。この主人が言うには、もともと娘はやさしい性格なのだが、時々、気が触れたようになって、小鳥の羽根をむしりとったり、犬に焼けた火箸を投げつけたりすることがあったのですが、今回、気がついたら妊娠している犬の腹を裂いて、中の子犬の様子をみていたというのです。これは、娘の正気がどこかに飛んでしまったに違いないと「失せ物屋」のお百に頼んできたという事情です。しかし、お百が、あの左目で娘を見ると、彼女は狐や悪霊もついておらず、狂気もない。全くの正気で、楽しんで、そういう残酷なことをしているのが判明します。それを娘の親の廻船問屋に伝えると、と彼は激高して、お百に怒り、娘を連れて帰ってしまいます。

これで何事もなく終わるかとおもっていると、それから半月後、焦茶丸が買い出しから戻ると、お百は留守で、部屋に名物の「福善堂の大福」が置いてあるのを見つけます。てっきり、お百が買ってきてくれたと思い、食べると毒が入っていて、焦茶丸は緑の泡を吹いて倒れてしまうのですが、彼を見つけたお百も、後ろから殴られて昏倒してしまいます。なんと、廻船問屋の娘「おぬい」が、お百も「青色の左目」が欲しくてたまらなくなり、お百から奪おうと襲ってきたという展開です。すでに人を殺した経験も隠そうとせず、ハドメの利かなくなっている「おぬい」から、お百は逃げることができるか・・・といったところですね。設定自体は、宮部みゆきさんの「初ものがたり」の「白魚の目」を思い出しました。


娘を食い荒らす女たらしをやっつけろ


最終話では、同じ長屋で闇の”堕胎医”をしている尼僧姿の女医・毒尼こと「乱恵」の依頼です。彼女は、親に連れられてやってきた、まだ幼い娘の堕胎手術をしたのですが、その娘が、子供の父親のことを頑として言わないことから、お百にその父親をつきとめてくれ、と依頼してきたものですが、どうやら、何度もこういう依頼をお百は受けているようですね。

今回は、第4話で、お百から左目を奪おうとした白狐と焦茶丸が調査にあたったのですが、その父親は大店の絹物問屋の跡取り息子で、世間の評判は優しくて、気が利いてという評判の孝行息子です。ところが、お百が左目で透視すると、この男、幼い小娘をだまして食い物にしているという札付きの色悪です。「乱恵」の依頼を受けているお百は、白狐に小さな少女に化けさせて、この男を罠に嵌め、きついお仕置きをするのですが、その方法は・・・、という展開です。お百が毒尼の「乱恵」を恐れるのは、彼女の薬の調合の技がスゴイからなのですが、今回のお仕置きもその技が活きてますね。


レビュアーからひと言


お百が床下に締まっている千両箱に千両たまったら、左目の「山神の鱗」を返してやる、という約束で始まった、お百と焦茶丸の同居生活なのですが、商売のほうは繁盛していても、お百の酒への無駄遣いがおさまらないのと、焦茶丸のつくる飯の旨さをお百が気に入ってしまったことや、焦茶丸が長屋の住人に受け入れられ始めているので、この同居関係は当分解消しそうにないですね。ストレス解消には効果のある、ふんわり系の妖しファンタジーなの

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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