女性職人の飾りの技で幕府の規制をふっとばすー西條奈加「千両かざり」(新潮文庫)

2021年3月20日土曜日

西條奈加

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 奢侈禁止の名目のもと、江戸庶民の暮らしのすみずみまで統制した、水野忠邦が主導した「天保の改革」の頃、贅沢品の象徴ともいえる簪の細工を行う四代続いた「錺(かざり)職」・椋屋の五代目の襲名を軸にしながら、四代目の娘・お凛を主人公に、当時、公式には認められていなかった女性職人の活躍を描くのが本書『西條奈加「千両かざり」(新潮文庫)』です。


あらすじと注目ポイント

物語はまず、四代続いた「錺職人」の老舗・椋屋の頭領となる「五代目春仙」を誰にするか、という場面から始まります。四代目の頭領は、この物語の主人公・お凛の姉の夫が継いでいるのですが。彼が突然の病で急死したため、急遽の跡目相続は話し合われることになったのですが、四代目の、幾人かの腕のいい弟子たちの中から、3年後に「お凛」が選ぶ、という遺言が示されます。「お凛」は三代目春仙の実の娘で、四代目の義理の妹なので、代々の頭領の一族ではあるのですが、なぜ彼女が決めるの・・、といったところですね。

さらに、後継ぎ候補の中には、弟子だけではなく、四代目の指示で、腕がよく新機軸も打ち出すのですが、ご禁制の作品をつくった罪で手鎖刑を受けた「時蔵」という弟子でもない職人が含まれていて・・という、いかにも揉め事のおきそうな滑り出しです。

一番目のヤマ場は、跡目相続をめぐる候補者同士の争いで、椋屋の伝統的な技と店のやり方を守ろうとする弟子たちと、売れ筋の商品をつくろうとせず、南蛮渡来の技術であるらしい「平戸」という技で派手な飾りを仕上げていく「時蔵」との間に根深い対立がおき、「お凛」を真ん中におきながら溝が深まっていきます。
変わっているのは時蔵の自分の技を隠そうともせず、誰でも真似すればいいという態度なのですが、彼の技に心惹かれる若手の弟子たちがでてきて古参の職人たちがさらに反感を強めて・・・という展開ですね。
ここで、「お凛」の態度が微妙で、人付き合いが悪く、自分だけを信じて技を磨いてく「時蔵」にいつのまにか恋心を抱くようになってという筋立てで、ここらはかなり「甘ったるい」仕立てになっているので、好みがわかれるところかもしれません。

二番目のヤマ場は、天保の改革が進行し、簪の飾りでも「金」や「銀」を使うことが禁止され、職人たちがやる気を失い、さらには江戸っ子の一番の楽しみである「祭り」にも様々な奢侈禁止の規制がかかっていく中、椋屋の取引先・生駒屋のお嬢様で「お凛」の幼馴染の「お千賀」がある企みを考えます。
それは、祭りの山車に、銀の飾りでこしらえた装飾をして、お上と世間を驚かそうというものです。もちろんバレれば、店への悪影響も相当なのですが、ちょうど、天保の改革の主導者・水野老中の権力にも翳りが見えてきていて・・・ということで、規制を強める「お上」の鼻をあかすとともに、規制に協力する体制派だということで、江戸庶民から嫌がらせを受け始めていた「生駒屋」の評判も回復することともなり、と言う展開なのですが詳細は原書のほうでどうぞ。

そして、最終的な「どんでん返し」は、五代目の跡目相続は誰に、というところで、四代目が、弟子たちの間の不和を生じるのを承知しながら、無茶をいって時蔵を、後継ぎ候補者にいれた理由と、お凛が時蔵に触発あれて自分の「錺職」としての腕を磨いていった結果が融合して、驚きの五代目候補が出現することになり・・・、という展開です。

ところが、この「どんでん返し」の先に、さらに仕掛けが隠されているので、作者のストーリーテリングの腕の冴えをしっかり味わいましょう。


レビュアーの一言ー女性職人の「恋」か「技」のどちらに注目?

本書は単行本当時は「恋細工」というタイトルで出版されていて、文庫本となるのをきっかけに改題されていますので、ダブリ買いには注意してくださいね、
表題的な印象では、「恋細工」のほうは、お凛の職人修行と、時蔵への恋心へ焦点が当たっている感じですが、「千両かざり」のほうは、天保の改革の末期、不満を貯めている江戸庶民のうっぷん晴らしを女性職人が先導するほうへスポットライトが当たっている感じです。
内容的には変わっていないのですが、時代によって、注目するところ、読みどころが変わっていくということなのかもしれません。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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