あさのあつこ「火花散る おいち不思議がたり」=おいちは、お家騒動の末に生まれた赤ん坊を守れるか?

2022年3月10日木曜日

あさのあつこ

t f B! P L

 江戸深川六間堀町の貧乏長屋「菖蒲長屋」で、町医者を営んでいる父・松庵の手伝いをしていて、思いを遺して死んでしまった人の姿を見たり、声を聞いたりといた特殊な才能をもった「おいち」が、診察の手伝いの合間に、死者の因縁の絡んだ事件の謎を解き明かしていく、ガールズ・時代ミステリーの第4弾が本書『あさのあつこ「火花散る おいち不思議がたり」(PHP文芸文庫)』です。


前巻で、幼い頃死別した姉の幻を心の中に抱え込んでしまったことで、自らがサイコキラーとなった大店の小間物問屋の若旦那の犯行を暴いたおいちだったのですが、今巻では、おいちが始めて取り上げた赤ん坊を残したまま、姿を消した母親の謎を追っていきます。


あらすじと注目ポイント


構成は


母と子

赤子、泣く

小さな手

夢の女

白い火花

遠い煌めき

想いの花

見知らぬ人

風に揺れて

やがて、朝が


となっていて、冒頭では、おいちが、深川元町にある老舗の薪炭屋の元お内儀の往診診療に行くところから始まります、節々の痛みとめまいで衰弱する老女に昔話をなせることでだんだんと回復させていくのですが、ここに「嘘」が仕込まれているのと、この老女と息子夫婦との隠された確執があることが後にわかってくるので注意しておいてくださいね。


本筋の事件のほうは、町人の格好をしている4人の侍に追われている、妊娠中の一人の女性を助けるところが発端です。「滝代」と名乗る旅姿のその女性は、おいちたちによって父・松庵の診療所に運び込まれ、そこで男子を産み落とすことになります。松庵が留守中のため、おいちが長屋の女房達と一緒に赤子をとりあげることになり、彼女は初めての産科医経験をすることになります。


その男子は、母親の「滝代」によって「十助」と名づけられるのですが、初乳をあげたその夜、滝代は診療所から姿を消してしまいます。そして、一ツ目之橋(ひとつめのはし)の近くで腹を刺され、背中を断ち切られて虫の息でいるところを。夜蕎麦売りに発見されます。


発見後、滝代をこと切れるのですが、まるでまだ妊娠中のように腹に晒しを突っ込んでいて、さらに彼女を殺した犯人は、滝代の腹の中の子供を厳重に始末したかったらしく、彼女の背中を斬って命を奪った後、念を入れるように腹を突き刺すという残虐なことをしています。


彼女が失踪した訳と、殺されなければならなかった理由は・・という謎解きに、おいちが岡っ引きの仙五朗の助けを借りながら乗り出していく、という筋立てです。


ちなみに、滝代が殺された「一ツ目之橋」というのは、東京都墨田区本所を東西に流れる堅川に架かる橋で、見た目は何の変哲もない橋のようですが、隅田川に入ってから最初の橋で、赤穂浪士が討ち入りの後、泉岳寺へ引きあげるときに使った橋ということで、時代小説にはよく登場する橋のようですね。


そして、事件のあとしばらくして、松庵の診療所に夜更け、妊娠した女性が担ぎ込まれたという噂を嗅ぎつけたのか、どこかの家中の侍が訪ねてきて・・という展開です。少々ネタバレしておくと、予想通り、大名家の後継ぎをめぐってのお家騒動で、ここらは時代劇によくある話だよねー、というところですが、おいちのところを訪ねてきた侍が、死んだ滝代の元許嫁の弟だったのですが、出世に目が眩んで・・というあたりがやるせないところでしょうか。


レビュアーの一言


今巻の騒動の原因となったのが、どこかの藩のお家騒動なのですが、その実体は、側室にこれから産まれてくる赤ん坊が男の子なら、現在、嫡子を廃嫡して後継ぎにする、っていう急死した殿さまの遺言なのですが、この時代、末期養子の禁はかなり緩んでいたとはいえ、大名家の代替わりは将軍お目見えとか幕府の許可が必要だったはずなので、こういう強引なことをすれば、真っ先に転封か改易の絶好の理屈となったと思われます。


藩の重役がまともに絡んでいたとしたら、この藩の行く末は結構危ないのでは、と思ってしまいますね。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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