和田はつ子「料理人季蔵捕物控1 雛の鮨」、「料理人季蔵捕物控2 悲桜餅」(時代小説文庫)

2017年11月12日日曜日

和田はつ子

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初版が2007年と10年前の時代小説であるせいか、今時の時代小説の「ふわっ」とした感じは薄い。主人公は、長崎奉行を務めたこともある名門・鷲尾家の家臣であったが訳あって出奔し、今は料理屋の板前をしている季蔵(武家の時は、「堀田季之助」という名)という男が主人公。さらにこの料理屋が実は曰く付きで、といった設定で、かなりオーソドックスな時代小説が「料理人季蔵捕物控」シリーズ。今回は1巻から3巻をレビュー。

 

昔ながらの「骨っぽい」時代小説の幕開け -- 和田はつ子「料理人季蔵捕物控1 雛の鮨」


収録は
 
第一話 雛の鮨
第二話 七夕麝香
第三話 長次郎柿
第四話 風流雪見鍋
 
の四話。

全体を通じて、季蔵が料理屋を継ぐ経緯と、出奔した旧家の因縁を断ち切る筋立てで、シリーズの幕開け本という立ち位置。
ざっくりとレビューすると
 
「雛の鮨」はこのシリーズの発端話。季蔵が板前をしている「塩梅屋」の主人・長次郎が殺されて、彼が実は隠密・密偵のような役目を務めていたことがわかる。そして、北町奉行の烏谷椋十郎から跡を継ぐよう勧められるのが次に続く設定。この話の主筋は、雛人形の老舗・千代乃屋の若主人が長次郎と同じような手口で殺された事件。美しい娘が懸想されて苦しむのはよくないですね、というのが実感。ちなみに「雛の鮨」とは、塩梅屋が作る雛祭りの鮨弁当で、五目寿司に隠し味の煎り酒を利かしたものらしい。
 
「七夕麝香」は、浮世絵に描かれた市中の美女がかどわかされたり、殺されたりといった事件。謎を解く鍵は、麝香の匂いのする匂い袋であるのだが、ここで、季蔵の旧主である鷲尾家が登場。彼が出奔する原因となった若殿の残忍な色好みが明らかになる。塩梅屋のおき玖も「あわや」というところで難を逃れるのだが・・といった展開。
 
「長次郎柿」は、江戸の闇を支配する虎翁に囚われの身になっている母子を助け出す話。助け出すキーとなるのが「長次郎柿」なのだが、これは渋柿をあわせて熟し柿にしたもの。当方としては、じゅくっとした柿より、カリッとした柿の方が好みなのだが、爛熟好きの方には熟し柿の方が通好みということか。
 
最終話の「風流雪見鍋」は、季蔵の仇敵である鷲尾家の若殿・鷲尾影守を討ち果たす話。もっとも、剣術でどうこうという話ではなく、鷲尾家の家督争いに巻き込まれるうちに敵討ちがなりました、という他力本願もの。風流雪見鍋は、はまぐり、かまぼこ、くわいに、海老、鯛、平目、焼き椎茸、しめじ、うずら卵、しらたき、ゆば、生麩などなどいれた寄せ鍋(「蓬莱鍋」ともいうようですね)らしく、家督争いの屋形船で供されるのだが、この鍋の具に影守の陰謀が仕込まれるのだが・・・、という話。
話の終わりに、元の許嫁の「瑠璃」も助け出されるのだが、騒ぎの中で正気を失ってしまうというなんとも「次巻以降を待て」といわんばかりの展開。
 
さて、シリーズの幕開けながら、市中の探索方を引き継ぐ話やら、美しい女が生贄のように時の権力者のもとに囲われたり、といったことで、少々重い幕開け。
ではあるのだが、最近の「スフレ」のように口当たりの良い時代小説もよいが、こうした「焼きおにぎり」のような時代小説もそれはそれでよいもの。そろそろ。こうした「ガツン」とした時代小説の復権もありうるのですかね。

江戸の「片隅」の物悲しい事件の数々 -- 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 悲桜餅」


先代の不慮の死をきっかけに、居酒屋の「塩梅屋」を継ぐことになった、元武家の料理人・季蔵シリーズの第2弾。一冊目で、季蔵が武士を捨てるきっかけになった、主家の2代目に仇をうち、元許嫁を救出したのだが、旧主の因縁は四方八方につながっているらしく、この巻でもその害毒から生み出される事件を解いていく筋立て。
 
収録は

「椋鳥飯」
「焼きみかん」
「悲桜餅」
「蜜紅」

の四話。
 
まず、「椋鳥飯」は、塩梅屋の旧主の長次郎の残した日記に記された「椋鳥飯」という料理の謎を解く話。「椋鳥」といえば、江戸時代に出稼ぎにきていた人々の蔑称でもあるのだが、果たしてそれに関係するのかどうか・・・。長次郎のし残した仕事を、季蔵が果たす話。
 
「焼きみかん」は、第1巻で成敗された鷲尾影守と関係のあった者が引き続き流している害毒と最後には結びつく話。事件自体は、呉服屋や薬屋で頻繁に起こる万引事件に隠された謎ではあるのだが、犯罪に巻き込まれて入るが、切れない「親子の情」といったことがテーマかな。
 
「悲桜餅」は桜餅にまつわる毒殺未遂事件。季蔵の元許嫁の瑠璃が命を狙われれるという事件なのだが、実は、その影に、鷲尾家の影守が死んだことが遠因となっていっらしく、勧善懲悪は二つの面をもっているのか、と嘆息。
 
最後の「蜜紅」は、これも旧主に関係する悪党が起こした事件の後日譚とその解決。「蜜紅」というのは、蜜が入った口紅のことであるのだが、もっと美しくなりたいという女性の心につけ込む犯罪は、いつの時代もけしからんものではある。
 
さて、第1巻で、過去を精算し、新たな人生の展開かな、と思わせた季蔵ではあるが、どうやら、まだ昔の因縁とその始末にふりまわされている。とはいっても、国家転覆といった昔ながらの時代小説にありがちのお家騒動はでてこず、市井の小さな謎の解決といったところが主。
まあ、そういうところが身近に思えるのも現代風の時代小説の良さもあるのだが、これからどう展開していくのでありましょうか。

周りの闇が晴れつつも、事件は続く -- 和田はつ子「料理人季蔵捕物控3 あおば鰹」

シリーズも三作目となると登場人物や設定も落ち着いてくるもので、本作ものその例洩れない。塩梅屋の新しい料理人となった季蔵、おき玖、弟分の豪介、三吉、北町奉行の烏谷、店の常連の喜平、辰吉、勝二といった面々が、それぞれ自分で動き出し始める頃であろう。
 
収録は

「振り袖天麩羅」
「あおば鰹」
「ボーロ月」
「こおり豆腐」

の四話。
 
まず「振り袖天麩羅」は、塩梅とライバルでもある「夢さくら」という店の美人姉妹のあげる天麩羅が発端。「夢さくら」の若い看板娘たちと「さつま鯛」という美味な秘蔵の料理で塩梅屋の常連たちが、河岸を変えてしまうかもといったきこがおとずれつ中、その美人姉妹が、天麩羅の火が原因で焼け死んでしまうという事件がおきるというもの。事件の犯人当てというよりも、娘二人の母親の心の中に巣食っていた闇の深さに「うーむ」と唸る話。さらには、娘の取り違いもなお悲しいね。
さつま鯛という料理は、長次郎がおき玖に、「三枚におろした鯛を一夜干しにしてね、味噌につけて後、お砂糖をまぶして蓋付きの小鉢にいれて、すっかりお砂糖が溶けるまで待ってたべさせてくれた」ものらしい。
 
「あおば鰹」は江戸っ子の大好物「初鰹」絡みの話。先の「振り袖天麩羅」の事件の舞台の主人の意外な裏の姿が披瀝されるのだが、それはおいといて、話の主筋は、塩梅屋の鰹料理を食いに通ってくる、落語家と隠居風の老人の意外な関係の話。
 
「ボーロ月」は、珍しく「ボーロ」という菓子の話。先の話に出てきた落語家(五平)が父の商売を継いで廻船問屋になるのだが、その亡父が、毎年ボーロ菓子をつくって、この時代の孤児院に届けていた。これを五平も受け継ぐのだが、その孤児院の寺で幼馴染に出会う。彼女が出家した経緯に同情して援助をか投げている内に、寺の庵主が殺される。この庵主はみかけによらず孤児たちを虐待していたらしいのだが、犯人は孤児の一人なのか・・・、といった謎解き。尼になったとはいえ、人の業の深さってものが、なんとも「ざらっ」とした味がしますな。
 
最後の「こおり豆腐」は、ひさびさに江戸の闇社会を仕切る「柳屋の虎翁」の話。今回の話で、権勢をほしい儘にした虎翁も年貢の納め時となる。旗本の次男で菓子屋の婿養子となった虎翁が、実権を握っていく事情が語られるのだが、その過程で、「菓子屋」を小馬鹿にしていたことが原因とも思えるし、子供の気持ちを汲んでやらないと後で痛い目にあうよ、といったことか。
 
さて、塩梅屋の主要な人々は健在ではあるが、季蔵を取り巻いていた数々の闇が徐々に晴れていく第三巻である。闇が晴れつつある中で、季蔵は、「裏稼業」とどう向き合うことになるのかな、といったところは次巻以降か。

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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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