長崎奉行を務めたこともある名門の大名家を訳あって許嫁とともに出奔した侍・堀田季之助が名を「季蔵」と改め、日本橋木原店にある一膳飯屋・塩梅屋を継いで、「刀」を「包丁」にもちかえて、料理に腕を振るうかたわら、町奉行所に協力して江戸の闇に潜む悪党をこらしめる料理人捕物帳「料理人季蔵捕物控」シリーズの第4弾から第5弾。
市井の事件の背後に、実は大きな闇が隠れている -- 「料理人季蔵捕物控4 お宝食積」
「料理人季蔵」シリーズも4冊目。登場人物や設定は大きな変更もなく、しばらくは、季蔵が塩梅屋で料理人を勤めながら、前の主人の裏稼業を継ぐかどうかを逡巡しながらも、徐々に悪を封じる役目を果たしていくといった展開。
収録は
「お宝食積」
「ももんじ姫」
「紅白酒」
「精進斬り」
の四編。
まず「お宝食積」の「食積」とは食べ物を使った正月の飾り物で、舞台の塩梅屋では先代の主人の時からの新年の名物となっている、という設定。そして、この飾り物の中から大粒の真珠が見つかる、というのが謎の一つで、これが、船宿の主人殺しに絡んでくる、というもの。この話自体は昔の悪行の因縁といったことであるのだが、後の話のエピソードにつながっているのが作者の手のこんだ所。
「ももんじ姫」は、獣肉を食わせる「ももんじ屋」の女将が変死する事件。この時代、げてものの部類に入るのだろうが、肉の旨さに抗いがたい上に、女将がとんでもない美人という店が舞台。この殺人事件の横に流れる話として季蔵の旧家の同僚がでてくるのだが。これが交錯するあたりが謎解きの本体。
この話では、このももんじ屋の女将は美人ではあるが高飛車で、お金の亡者といった印象なのだが、第4話でこれがどんでん返しとなるのだが、正直、この転換はちょっと唐突。
「紅白酒」は、酒乱で博打好きの武家の亭主をもった妻の売春にまつわる事件。この事件の被害者となる旗本の妻女・時恵が、塩梅屋のなじみの同心・田端の幼馴染であることから、事件は田端に嫌疑がかかったっり、と妙な展開をしていく。最後のところは、よじれた夫婦関係が事件の真相とはなるのだが、次の話で「時恵」の意外なか過去が明らかになるので、亭主ばかりを責めてはならないようです。
最後の「精進斬り」は寺社奉行に変死を発端に、怪しげな加持祈祷をする寺の坊主の犯罪が明らかになっていくのだが、これが昔の大奥の女中たちのスキャンダルが絡んでくる。ここで、前の時恵がスキャンダルの暴露に関係したことがわかってくるのだが、これを知ると、前の話の時恵の行為は果たして、息子の立身を願うだけの理由だったのか、と邪推をしてみる。事件自体は、昔の悪行ふたたびといった坊主が成敗されて大団円ではあるのだが、少々、読後がざらっとした印象は否めません。
この「料理人季蔵」シリーズの事件は、薄皮の一枚目は、市井の庶民や殺人などの事件なのだが、実はその裏に、江戸の闇がうごめいていて、なんていう筋が多いのだが、巻が増すにつれてその傾向が強まっている気がします。
大店や武家の中には必ず「事件」が隠されている -- 「料理人季蔵捕物控5 旅うなぎ」
江戸市中で居酒屋「塩梅屋」の跡を継いだ元武士の季蔵(としぞう)の捕物シリーズも5冊目となった。
収録は
「想い筍」
「早水無月」
「鯛供養」
「旅うなぎ」
の4話。
江戸の闇を支配する巨悪のどうこうとかは今回は登場しないものの、闇の中に潜んでいる中ボスキャラが出現して、季蔵の板前稼業も脂が乗ってきたのと並行して、出会うキャラもそれなりに闇が深くなってきている感がする。
さて、最初の「想い筍」は、塩梅屋の春の名物で二日間にわたる「筍づくし」に使う筍を掘りに行くところから始まる。この季蔵とおき玖が筍掘りにでかける場面で、おき玖の「雛次」という幼馴染の思い出が語られたり、中段でも彼との甘酸っぱい初恋話が語られるのだが、それは四作目の前振りとして仕込みがされている。
話の大筋は、貧乏暮らしの長そうな浪人者・木崎吉五郎が「筍づくし」の筍田楽や筍の蒸し物を、労咳に病む妻に土産で持って帰る、という夫婦情愛物仕立て。ただ、一本松藩の侍が自害に見せかけて殺されるあたりから雲行きが怪しくなる話。
話の最初の方の
筍の田楽とはゆがいた筍を昆布だけの薄味に煮て、半月形に切り、青竹に刺して、さっとあぶり、赤・白の田楽味噌、木の芽味噌を塗り分け、赤の田楽にはけしに実をふり、白の田楽には木の芽をあしらうというものである。
といった田楽料理が妙に気を引きますな。
「早水無月」は、季蔵の師匠の長次郎が残した日記に書かれてた、幻の料理「早水無月」を再現しようとする話。この再現の協力者として登場するのが、江戸一、二を争う菓子屋・嘉月屋の主人・嘉助。彼は、菓子づくりに邁進すると、美人で有名な妻の「お市」(どうも、この名は美人の代名詞っぽくてありきたりではありますな)のことも放ったらかし。まあ、ひと頃の「ワーカーホリック」である。
で、旦那が仕事のことしか考えてないせいか、家業は順調で大儲け状態。妻は放置状態で、贅沢好きの美人。といったことになると、嘉月屋の手代が蔵の中の変死している事件の犯人・真相は、御想像のとおりなのだが、話の最後で再現される「早水無月」も見た目に騙されてちゃいけないよ、という教訓として読むべきでしょうか。
「鯛供養」では、おき玖が、幼馴染の雛次(成人して「清次良」と名乗っている)に再会し、昔の恋が再燃して・・、といった目出度い展開。これとは別に、「鯛料理」で有名な(当然、お高価い)「みつ芳」という店の食品偽装の話。鯛の刺身で休止する子供の話は、現代の期間をおいては再発する食中毒事件がモチーフなのでしょうか。
ただ、この店で北町奉行の烏谷に提供される
いわば、鯛を使った贅沢この上ない蒲鉾である。擂り身にした鯛に卵白、水溶きした葛粉を加え、さらに、小指の先ほどに切った三つ葉の軸、千切りにした木耳、人参、赤貝と合わせて鉢に入れ、よく練って、平たくしておく。これを蒸篭で蒸し上げ、すっかり冷めたところで、箆ですくって器に盛り上げる。冷やせば冷やすほど美味な夏の料理であった
という「ささら鯛」は、作中では生臭くて食える代物ではない設定なのですが、「塩梅屋」できちんと調理すれば極上品になると思われます。
最後の「旅うなぎ」は、おき玖と清次良との関係に結論がでる話。表題の「旅うなぎ」は「常陸、上総、房総などの産」のうなぎ。三冊目の「あおば鰹」や「ボーロ月」に出てきた海鮮問屋・長崎屋の主人・五平が、女浄瑠璃の水本染之介に入れあげて、彼女の歓心をかうために、季蔵に調理してもらう
まずはうなぎを白焼きにした。・・・これに蒲焼きに使う味醂と醤油のタレをさっとかけて、小指の先ほどの大きさに切り揃えておく。卵三個のうち、黄身二個分を取り去ったものに、煎り酒と砂糖を加えて味をつけ、玉子焼鍋に流し込む。これに先のうなぎと大葉の千切りを散らしてのせ、焼きながらこれを巻き込む。この時、取り置いてあった黄身を崩して、斑点になるように散らすと、切った時、菜の花のように見える
という旅うなぎの「菜の花巻」が、この話の料理の華。この料理が縁となって、五平と染之介の仲が進展することになるのだが、この料理が染之介の楽屋に届けられる影で、前三話の事件の影の影にいる輩があぶり出されてくる。さて、それは・・・、といったところは原書で確認願います。さらには、おき玖と幼馴染・清次良の仲は・・、といったところもここの関係してくるですが・・。
さて、この巻の事件は、大店や武家絡みで起こる事件の数々でありつつも、あいかわらず、季蔵をはじめ、おき玖、五平といったメイン・キャストに関連する事件である。このシリーズの常として、小さな事件の裏に実は巨悪が隠されていた、ってのがよくあるので、次巻以降、どんなボスキャラがでてくるか、楽しみではあります。
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