長崎奉行を務めたこともある名門の大名家を訳あって許嫁とともに出奔した侍・堀田季之助が名を「季蔵」と改め、日本橋木原店にある一膳飯屋・塩梅屋を継いで、「刀」を「包丁」にもちかえて、料理に腕を振るうかたわら、町奉行所に協力して江戸の闇に潜む悪党をこらしめる料理人捕物帳「料理人季蔵捕物控」シリーズの第11巻~第13巻
陰惨な事件は「獣肉」料理で口直しをしよう -- 「料理人季蔵捕物控11 ひとり膳」
季蔵捕物控シリーズの第11弾は、季蔵の師匠・長次郎の残した「三段重提げ弁当」に関わる話。
収録は
第一話 梅見鰤
第二話 饅頭卵
第三話 吹立菜
第四話 ひとり膳
2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、この巻は、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった理由と、「鰤尽くし」を封印してしまった理由を解き明かすのが主眼となる。
ざっくりとレビューすると「梅見鰤」は今回の話の発端話。2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった謎と、「鰤尽くし」を封印してしまった謎を解き明かすのが、この巻の主筋であることが示される。
謎は謎として、
鰤に限らず鍬焼きなどの照り焼きには大きな鉄鍋が使われる、火にかけた鉄鍋に菜種油を敷き、そこに皮を舌にした鰤を焼き付け、返して焼き上げたところに、醤油と味醂、酒、砂糖を混ぜたタレを回しかけて調味する。タレの香ばしさが最大限、鰤の身の旨味を引き出す絶品であった。
という「梅見弁当」の華である「鰤の照り焼き」が旨そうである。
これを受けての第二話は、梅屋敷に出かけた、おき玖が落雷騒ぎに巻き込まれる。そして彼女が避難した梅見茶屋「亀可和」で、新酒問屋のお内儀さんの持つ「夜光の珠」の盗難騒ぎがおきるという話。風情と心根がぐるんぐるんと変わり、美しい女性の「怖さ」を感じるのは当方だけか。まあこれは伏線の筋で、本筋は、おき玖を助けてくれた「與助」の身の上が次話へと続く話となる。
第三話の「吹立菜」は、與助と梅見茶屋の女将が惨殺されるところから始まる。で、この話で、亡き師匠の長次郎が春慶塗の重箱を使わなくなった理由が明らかになるのだが、これが與助の話と関連してくるという仕掛け。
そして最終話「ひとり膳」で重箱の謎とか、鰤尽くし封印の謎とかが明らかになるのだが、このシリーズの常として、善人面した奴が、実は一番悪いヤツという原則がここでも遺憾なく発揮される。まあ、この巻は江戸の暗闇に巣食う「巨悪」ってやつは出てこないのだが、その分、悪事を見逃している有力者の姿と、子ゆえの闇そのものの母親の姿は余り心地よいものではない。なので
小鉢に叩いた鹿肉と、少々の味噌、おろしにんにく、きざみマンネンロウを合わせた。それを俵型に丸めて、小麦粉を叩き付け、ぷつぷつと小さな泡の浮いてきた小鍋へと落とす。(中略)シューッという小気味よ音がして、鹿肉の唐揚げが一つ、出来上がった。(中略)口の中いっぱいに香ばしさと清々しさ、そして、えも言われぬ、旨味が広がっていく。
といった当時としては珍しい洋食料理である鹿肉のカツレツで口直しとして、このレビューを了としよう。
お茶屋の小町娘が手折られる話は悲しいね -- 「料理人季蔵捕物控12 涼み菓子」
シリーズも12弾目となると、登場人物に少々の変更というか、環境変化が欲しくなるところなのだが、本作で、季蔵の弟分・豪介の身の上に変化が起きる。
収録は
第一話 涼み菓子
第二話 婿入り白玉
第三話 夏の海老
第四話 乙女鮨
となっていて、まずは豪介が、「みよし」という甘酒屋の看板娘・おれいの婿取りのコンテストに立候補するところから始まる。そのコンテストというのが、この店に出す「冷やし甘酒」に合う「涼み菓子」を考案するということ。
で、豪介が季蔵の助けを借りながら考案するのが、西瓜糖を使った菓子なのであるが、その菓子ができて、婿取りコンテストの結果も、ってなところで、この甘酒屋の小町娘に不幸が訪れる、といった展開となる。
総体に、このシリーズは、好事魔多しというか、上げ潮にのって調子づいていると、それと同じくらいに下げ落とされるというのが常で、今回の話も、後半は、その小町娘の事件の謎を解くというもので、彼女に限らず、幾人かの美人娘が殺されるので、少々気が滅入ってくるものではある。なんにせよ、若い美女が死ぬってのは良くないよね。
まあ、この巻の清涼剤は、豪介と季蔵の考案した、黒砂糖、ざらめ、水を煮詰めた黒蜜に西瓜糖を一匙加えて白玉にかけた「涼み菓子」と、最後の話の各々牛蒡のシャクナギ、蓮根の揚げ牡蠣、茄子の昆布締めが詰められた「乙女鮨」であろうか。
最後の方で、豪介の身の上の変化にちょっと救われた気がするので、最後まで読んでくださいな。
小猿を従えた美少女くノ一の登場 -- 「料理人季蔵捕物控13 祝い飯」(時代小説文庫)
シリーズが定着してくると、キャストも固まってきて、話の展開も安心して読めるのは一つのメリットなのだが、マンネリ感が滲み出してくるのはどうしようもなくて、その弊害から逃れるのは、いかに魅力的で気を引く、短期的なキャストを用意するか、であると思う。
今巻は、全巻で季蔵の弟分・豪介を結婚させてしまって、今までのキャストからの新しいネタの提供がちょっと難しくなったところでの、美少女の投入である。
収録は
第一話 祝い飯
第二話 里芋観音
第三話 伊賀粥
第四話 秋寄せ箱
となっていて、結婚した豪介の披露宴と豪介とおしんの子供ができたといったところから始まる。そして、二人の祝言にふさわしい料理を考える季蔵であったが・・・。ってなところで、鯛を使った毒殺事件、といったあたりが、本作でおきまりの突然の舞台転換である。で、ここで投入されるのが、くノ一と思しき、小猿を連れた美少女・お利うで、背中に観音菩薩の刺青を背負っているという念の入った美少女なのでありますな。
まあ、話の本筋は、前作ででてきた、北町奉行の烏谷が幕府の重役と結託してつくった、ご公議公認というか、幕府の財源を生み出すために創った「賭場」の後始末の話。10巻頃までは正義の見方であった北町奉行にも泥がついていたか、となるのはちょっと苦い展開ではある。
今巻で登場する料理は、塩釜で蒸した焼き芋であるとか、潮仕立ての蛤汁であるとか少し小ぶりな物が多いのだが、ここは「お利う」の妙な愛らしさに免じて「可」としよう。
残念ながら、「お利う」は最終章で故郷に帰ってしまう。物語的に使いづらかったのかもしれないが、是非に再登場していただけないかと思う次第なのである。
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