上田秀人「百万石の留守居役3 新参」「百万石の留守居役4 遺臣」(講談社文庫)

2018年3月12日月曜日

上田秀人

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百万石を領する大大名で、将軍家の後継ぎ候補にもあげられた加賀藩主の腹心として、元は幕臣ながら、加賀藩に籍を移している瀬尾数馬が、加賀藩の江戸留守居役として幕府の執拗な圧力と将軍の地位を狙う徳川一門と幕閣に対抗していく時代小説「百万石の留守居役」の第3巻と第4巻


瀬野数馬、留守居役デビュー。加賀・前田家に降りかかる難題を解決できるか? -- 上田秀人「百万石の留守居役3 新参」

第1巻、第2巻で、四代将軍家綱の後継にという申し出を見せ金にして、加賀・前田家の取り潰しを画策していた大老・酒井雅楽頭の謀略から、からくも逃れた、加賀・前田家。本シリーズの主人公の瀬野数馬は、その際の働きが認められ(?)、藩の重臣・本多政長の娘を押し付けられるとともに、江戸屋敷の留守居役を命じられる。
 
構成は
 
第1章 藩の顔
第2章 慣例の棘
第3章 遊興の裏
第4章 留守居役の形
第5章 枕元の攻防
 
となっていて、本巻は、数馬の華々しい江戸デビューを期待するところであるが、「留守居役」という本来なら老練な年配の交渉上手が任命される職に、国元でも交際があまりなく、剣術の腕はたっても、朴念仁の若造が任命されたものだから、どうにも気勢が上がらないのは確か。
 
とりわけ、越前松平、酒井、井伊、会津松平、高松松平、津山松平といった、加賀・前田家と同格とされる”同格組”の留守居役の面々へのご挨拶と称しての品川の旅籠での接待で
 
留守居役の挨拶は徹底していた。宴席に招待したうえ、女まで要ししなければならない。それに本人は入らない。数馬はずっとこの部屋で食事も摂らず、翌朝まで控えていなければならないのだ。
これも慣例であった、いつから始められたかはわからないが、新参者が組へ迎え入れられるために儀式であった
 
といったあたりは、「新人いびり」は、江戸期からの伝統か・・、と少々暗くなる。
 
第4章のあたりで、今回の加賀・前田家へ世継ぎ話がもってこられた本当の理由、家綱と酒井の「宮将軍」の企みがはっきりする。当然、御三家や館林の綱吉、老中・堀田正俊などなどの面々が、面白いわけがなく、次期将軍位を巡ってがちゃがちゃと暗躍するのだが、病気の上様をお慰めするためのイベントを、と水戸→堀田→加賀・前田家と思惑が行き来するところは、さながら戦とおなじであるな、と感心する。
五代将軍の跡目勝負の勝者が誰かは、歴史事実で明らかなのだが、その裏に実は・・、といったところは時代小説作家の腕の見せどころでありますな。
 
今回の世継ぎ騒動で、加賀藩から逃亡した、前任の江戸留守居役の小沢が、老中・堀田正俊の留守居役になっているのだから、あれこれと事を面倒にしている。さらには、許嫁の琴姫の侍女の「佐奈」が、姫の命によって数馬の世話をしているのだが、あれこれ誘いをかけてきて、うかうかと誘いに乗ると落とし穴に落ちそうな感じなのであるが、うらやましくもありますな。

将軍没後も前田家に降りかかる大老の謀略 -- 上田秀人「百万石の留守居役4 遺臣」

第1巻・第2巻では、将軍の後継ぎになるよう大老から持ちかけられ、それを首尾よく断ったと思ったら、第3巻で四代将軍・家綱が死去し、と加賀・前田家に降り掛かってくる揉め事は尽きない。それにあわせて、新米留守居役・瀬能数馬も右往左往させられる。
 
今回の構成は
 
第1章 将軍の葬儀
第2章 殉ずる形
第3章 走狗の夢
第4章 見習い同士
第5章 大老最後の策
 
となっていて、家綱死去後、後継ぎに決まった館林候・綱吉が将軍宣下を受けるまでに、権力の温存を狙って画策する酒井大老の謀略をいかにかわすか、というのが第4巻。
 
酒井大老が前田家に将軍後継の話をもってきたのは、本命の宮将軍の隠れ蓑で、宮将軍の目的は、
 
鎌倉は宮将軍をいただいたおかげで、蒙古が襲来するまで天下平穏を維持できた。室町は関東公方をはじめに、足利の血をあちこちに配した。その血族の間で将軍位に争いがおこり、それが応仁の乱につながり、天下大乱となった。
 
というものらしい。ローマ帝国の「四帝」をはじめ、複数の権力中心ができると亡国の元になるのは間違いないが、歴史は、徳川幕府がその後10代にわたって続くことととなるので、この宮将軍が実現していた時に、今の日本がどうなったいたかは、結構想像力を刺激する話題ではある。
 
この巻からの展開は、酒井大老が、亡君への忠義立てと、今後の自家の存続を狙って放つ「綱吉を加賀・前田家が暗殺を計った」あるいは「暗殺した」ことにする謀計をいかにかわしていくか。そして、次期政権の権力者となるであろう堀田備中守との関係がどうなるか、といったところ。
暗殺事件の役者には大奥御広敷の伊賀者も登場してくるのだが、今回は「敵役」。「伊賀者」と聞くと、なにか正義の味方っぽく思ってしまうのは、「伊賀の影丸」をはじめとしたマンガの影響であるな。
 
そして、今巻での瀬能数馬の成長は、まず一つは、加賀藩が綱吉暗殺未遂の犯人という謀略に利用された加賀忍の死体を探し出す過程で、町方の役人の扱い方を学んだこと。もう一つは、元加賀藩江戸留守居役で、今は堀田老中の留守居役となっている小沢と丁々発止のやりとりができるぐらいに交渉力が上がったことであるかな。
 
今巻は、将軍没後の騒ぎの渦中のせいか、歴史秘話的な薀蓄話は少ない。将軍没後の新旧権力者の静かな闘争と、それから逃れようとする前田家の活動を、ハラハラ・ドキドキと読めばよいでしょうね。

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