上田秀人「百万石の留守居役5 密約」「百万石の留守居役6 使者」(講談社文庫)

2018年4月7日土曜日

上田秀人

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百万石を領する大大名で、将軍家の後継ぎ候補にもあげられた加賀藩主の腹心として、元は幕臣ながら、加賀藩に籍を移している瀬尾数馬が、加賀藩の江戸留守居役として幕府の執拗な圧力と将軍の地位を狙う徳川一門と幕閣に対抗していく時代小説「百万石の留守居役」の第5巻と第6巻


瀬能数馬、留守居役としてはまだまだ未熟者 -- 「百万石の留守居役5 密約」

家綱没後、将軍世子となった綱吉の暗殺未遂事件から将軍宣下のところまでが、今巻。
 
構成は
 
第一章 世子の座
第二章 直参と陪臣
第三章 留守居攻防
第四章 密談の場
第五章 寵臣の交代
 
となっていて、権力が強ければ強いほど、その主役が交代する時は、あちらこちらで暗躍するものがでてくるし、それに乗じて利を得ようとする者がたくさんでてくるもの。
 
今巻は、権力の座を巡っての、酒井大老と堀田老中の争いが激烈化していくのだが、加賀藩中も、江戸家老の横山とその本家の旗本が、瀬能に妙なちょっかいをかけてきたり、と嵐に巻き込まれていく。
 
家綱の後継を巡っては、加賀・前田家や、宮将軍が酒井大老によって画策されていたので、綱吉が将軍になると前田家への仕打ちも相当なものになりそうなのだが、このシリーズの主人公・瀬能数馬は、まだ未熟なため、主家を助けるというよりも邪魔をしないのが精一杯という状況である。
邪魔をしないどころか、外様組の接待で、あてがわれた女郎を断って、後の火種をつくってしまったりと、足を引っ張る行いが目立つ
 
もっとも、加賀の国元での、琴姫のおつきの侍女の「さつき」と「やよい」の強さを考えると、琴姫推薦の妾候補の「佐奈」のことが怖くて手を出すどころではないのかもしれない。
 
今のところ、数馬の働きは、藩主警護といった武張ったものが主で、およそ留守居役らしくない。本人も自分が留守居役に向かない気がしているが、加賀藩きっての重役・本多政長と藩主・綱紀の命令であるのでいかんともしようがないという状況。しばらくは、将軍相続のどさくさの大老・老中と加賀藩や御三家の権力闘争と、秘められたエピソードに「ほう」と声をあげながら、右往左往する数馬に声援をおくるとしましょうか。


数馬の「会津行き」は、なかなかの収穫-- 「百万石の留守居役6 使者」

外様小藩の留守居役の宴席でしくじり、薩摩藩から、加賀藩へ「お手伝い普請」を押し付けるための格好の材料として狙われることとなった数馬である。その罠をしかける薩摩藩主催の外様組合の宴席に欠席させるため、会津・保科家を使者として出向かされることとなったのだが、その会津道中での出来事が、今回の主な筋。
 
構成は
 
第1章 街道の景
第2章 国元の策
第3章 国元留守居役
第4章 弁舌の戦
第5章 老中の借り
 
となっているのだが、数馬が使者となって出向く理由の「前田綱紀の継室の相談」というのが、後々、これ以降のシリーズの話の展開にえらく影響してくる。というのも、前田綱紀は、保科家から正室を迎え、それが早世している。今まで保科家に遠慮して継室(ぶっちゃけ後妻だよね)を入れなかったのだが、正式に探し始めたとなると、あちこちの大名家が前田家の援助を狙ったり、味方に取り込もうと動き出す、ということになるらしい。
 
本巻の展開は会津で挨拶だけで帰れると思ったら、藩の重鎮・西郷頼母に呼び出されて丁々発止のやりとりをしたり、数馬をつけねらう三人組が会津まで出張ってきて、帰りの道中での大立ち回りがあったり。留守居役として成長しつつある数馬の交渉術の進歩を感じたり、数馬・石動・佐奈の剣技や忍技の冴えが見られたり、結構血湧き肉躍る風情で、時代小説だなぁ、と楽しく読める仕上がりである。
 
さらに、このシリーズの愉しみの一つは、この時代の江戸の小さなTips、それも武家の「中」の話であるとか、吉原の風俗とかで、今回は、吉原で茶を立てるとき、
 
茶道ではきっちりと膝を揃え、姿勢を整えて行うが、揚屋の茶は、遊女が肩膝を立てる。お尻を座敷につけ、片膝を立て、残りの足をあぐらに組む。仏像にある半跏思惟像の形が近い。
片足を立て、片足を組む形にする。当然、裾は割れる。小袖の裾だけではない。このような姿勢になれば、湯文字まで開く
 
といったところを紹介しておこう。
 
さて、留守居役に、未だあちこちで火種をつくるものの、着実に逞しくなっていく瀬野数馬。晴れて。「琴姫」と一緒になるのはいつでありましょうか。それとも、それを待たずに「佐奈」に手をつけてしまうのでありましょうか、まあ、そんなあたりも密かな愉しみになってきた「百万石の留守居役」シリーズであります。
 


 

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