上田秀人「御広敷用人 大奥記録11 呪詛の文」「御広敷用人 大奥記録12 覚悟の紅」

2019年5月24日金曜日

上田秀人

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 「勘定吟味役異聞」シリーズで、将軍家宣の寵臣・新井白石に見出され、綱吉時代から行われた勘定奉行や豪商などによる幕府内の様々な不正を暴いてきた水城聡四郎が、今度は新将軍の徳川吉宗に見出され、「大奥」を相手に大暴れする「御広敷用人 大奥記録」シリーズの第11巻~第12巻。このシリーズの最終局面です。


徳川吉宗と天英院、大奥で最終対決 ー 「御広敷用人 大奥記録11 呪詛の文」

今巻は、吉宗の長男の毒殺未遂から、竹姫を刺殺しようと大奥の七つ口を舞台にした闘争劇であるとか、長福丸の居住する「西の丸」の大奥を舞台にしたおおがかりな暗殺騒動とか、アクションシーン満載である。そして最後に、吉宗と天英院の最終バトルも待っているので、最後まで楽しめる仕上がりである。

 【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 西の丸大奥
第二章 近遠離合
第三章 攻めと守り
第四章 反撃の決意

となっていて、前巻の最後で吉宗の世継ぎ・長福丸に添い寝役・菖蒲の手によって毒を盛られて倒れるところからスタート。水城聡四郎は、吉宗から「西の丸大奥」の目付役に任じられ、長福丸暗殺未遂事件の調査に乗り出す。ここらへんで、幕府の御広敷番頭や筆頭添番は、「男」が大奥へ足を踏み入れるとは・・、と抵抗するのだが、「男性の医者」をいれるのを躊躇して吉宗から怒られているのだから「いい加減、覚えろよ」という感じなのだが、たぶん、物事が落ち着いてから罰せられた事案が過去にあったので保身に走っていると推察しますな。

この添い寝役・菖蒲は最後まで、本当の黒幕の名前を言わずに自害するのだが、この姿は企業戦士たちが組織の犠牲になって非業の死を遂げる姿とオーバーラップして悲しくなりますな。

で、竹姫暗殺の謀略は、竹姫が大奥の中にじっとしていれば出来るわけがないのだが、この「優しい」姫様は、長福丸が健康を回復するよう代参に行きたいと言い出すのだがら、襲うほうからすると願ったりかなったりの事態。もっとも読者のほうも、館林藩や元御広敷伊賀者や伊賀の郷忍たちが入り乱れての大バトルが展開されるのが間違いないので反対する理由はないですね。

襲撃は竹姫は参詣する「五條天神社」の周辺ではなく、大奥の入り口である「七つ口」のところ。神社のところで襲えなかったのは、聡四郎の師匠の貫禄ですね。
そして、今回の襲撃の「見事」なところは、竹姫襲撃を罠として使って、本来の目的に向かっていった、御広敷伊賀者の元頭領・藤川の作戦であろう。「本来の目的」というのは原書で確認してほしいのだが、戦闘の中心は、大奥ではなく、長福丸のいる「西の丸」で繰り広げられることとなる。襲撃方の元伊賀者たちも総動員の体制で、かなりの大乱戦になるので、ファンの方はお楽しみください。

最後の山場は、竹姫・長福丸と自分が大切にしている人に続けざまに刺客を出されたことに怒り心頭に達した、徳川吉宗が大奥へ乗り込んで、天英院に懲らしめようとするところ。
ここに至っても、先々代の将軍の奥さんであるとか京都の縁故でなんとかなると思って、吉宗を返り討ちにしようとするところが、彼女の「お嬢さん」なところであるな。ここの場面で、大奥の開かずの間を護ってきた「女番衆(めばんしゅう)」が姿を現して、「将軍の御台所には悪政をなす将軍を誅する権」があることを伝えるのだが、天英院は今の将軍の御台所でもないし、さらにはそれを受け継ぐ人徳もなくなっていた、ということでありましょうね。

もっとも、こういう女性が一番執念深くて怖いもので、吉宗にどうしたら復讐できるか、しっかりと謀略をめぐらすところは次巻で。

【レビュアーから一言】

長福丸に毒を盛った添い寝役・菖蒲は、親分である天英院から切り捨てられ、自害するよう仕向けられるのだが、こういう上司はたまらんな。
皆さんの近くにそんな感じのエライ人がいたら、こっそり逃げておいてほうがいいですよ。腐れ縁で、菖蒲に引導を渡すのと、引き続き「竹姫暗殺」を引き受けさせたられた館林藩江戸家老・山城帯刀が「あのお方は、あくまでも御摂家の姫さまなのじゃ。己に書いさえ及ばねば、なんでも切り捨てられる」と見抜いてますな。(このあたりは今巻の最後のところでよくわかります)

余談ながら、日本の経済界のトップたちが「終身雇用は守れない」と本音を大声で言いはじめた今どきなのだが、サラリーマン諸氏はそろそろ組織への対処の仕方を抜本的に考え直したほうがいい時期になっていると思いますね。でないと、この添い寝役と同じような目にあわないとも限りません。


天英院の意地悪が実って徳川吉宗と竹姫の「悲恋」完成 ー 「御広敷用人 大奥記録12 覚悟の紅」

前巻で、吉宗が、自ら大奥へ乗り込んで天英院と対決し、彼女をとことんやっつけてしまったのだが、いささか追い詰めすぎた感があって、天英院が捨て鉢の行動に出るのが本巻。こうなると失うもののない天英院相手では、将来に向かって護りたいものが増えてしまった吉宗が少々、不利であります。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 権威崩壊
第二章 策謀の文
第三章 品川の騒ぎ
第四章 長袖の変
第五章 想いの末

となっていて、前巻で吉宗によって権威も権力も丸裸にされてしまった天英院と姉小路が、吉宗への復讐を企むところからスタート。復讐とはいっても、「武力」沙汰では、すべて負けを喫しているので、最後の嫌がらせは、吉宗と「竹姫」との結婚を邪魔することで、このへんは実家が京都の有力公家・近衛家の娘の天英院の得意分野でありますね。

そして、前巻で「竹姫」の味方となったと思っていた「女番衆(めばんしゅう)」が実は朝廷の意をうけて、御台所の候補者となる竹姫を取り込もうとしていることがわかるのだが、竹姫は竹姫で負けてはいません。このお姫様は肝が座ってますな。

戦闘シーンは、館林松平家へ聡四郎が「詰問」にいくところなのだが、うまくごまかさないと、自分はおろか主家まで罪を得てしまうと必死に防戦に入る江戸家老・山脇帯刀の気持ちも知らずに、藩士たちが聡四郎たちを襲ってくる場面が、この巻では一番のおおがかりなもの。もっとも、聡四郎のほかに家士の玄馬、師匠の無手斎が揃っているので、館林家の藩士たちがかなうわけはないですな。

天英院の頼みを受けた、彼女の親父の近衛基熈が娘の恨みを晴らすのと、朝廷内での自分の失地回復を図るため、捨て身の邪魔を図るのだが、その結末は・・といいながら「史実」のとおり、吉宗は将軍としては生涯独身です。まあ、そうでないと「久免」の方の美談が成立しませんのでね。

【レビュアーから一言】

徳川吉宗と竹姫と恋愛は悲恋に終ってしましました、ということで本書でも、最後は竹姫の嘆く声で終わっている。
もっとも、将軍家の安泰ということを考えると、長男の長福丸が言葉が不自由になったが、一命をとりとめていて、次の跡目は彼であるのは変わりません。仮に吉宗と竹姫が結ばれて男子でもできた日にはお家騒動間違いなしなので、まあ仕方がないのかも。次男が将軍家が継げなくて不満たらたらで吉宗から謹慎を命じられているぐらいですからね。
このシリーズは、聡四郎の役目が変わってまだ続くので、引き続きお楽しみください。


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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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