琴姫、愛する夫の救出に乗り出す ー 上田秀人「百万石の留守居役11  騒動」「百万石の留守居役12 分断」(講談社文庫)

2019年5月20日月曜日

上田秀人

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 百万石を領する大大名で、将軍家の後継ぎ候補にもあげられた加賀藩主の腹心として、元は幕臣ながら、加賀藩に籍を移している瀬尾数馬が、加賀藩の江戸留守居役として幕府の執拗な圧力と将軍の地位を狙う徳川一門と幕閣に対抗していく時代小説「百万石の留守居役」の第11巻と第12巻


琴姫、愛する夫の救出に乗り出す ー 「百万石の留守居役11  騒動」

隣藩の松平福井藩に使者として赴いたものの、加賀前田家の取り潰しを踏み台に豊穣な地への国替えを狙う福井藩の本多大全と、そろそろ精神状態がおかしくなってきた松平綱昌によってあやうく殺害されかけた、瀬能一馬たちの救出劇が本書『上田秀人「百万石の留守居役(十一) 騒動」』(講談社文庫)。

【構成は】

第一章 将軍の手
第二章 女駕籠
第三章 姫の顔(かんばせ)
第四章 街道の応答
第五章 城下騒乱

となっていて、ほぼ全てが、福井藩内での大活劇。ただ、当方に地理感がなくて、頭の中で、リアルに映像化できなかったのが残念。この際、北陸旅行を考えて、「百万石の留守居役」シリーズの舞台を歩くのも面白いような気がする。

【あらすじ】

まずは、一馬一行の救出劇と平行して、「堂々たる隠密」本多政長を江戸へ呼び寄せる策謀が動き始める。この策謀の黒幕となるのが、老中・大久保加賀守なのだが、この人物、老中・堀田備中守が殿中で稲葉正休に斬り殺された後、政権の中枢を握り、念願の小田原に返り咲いた人物なので、このシリーズでも、さらに重みを増してくるのかな、と推察する次第。

さて、福井藩で騒動に巻き込まれた、一馬一行急須つなのだが、なんと、一馬の新妻・お琴姫が、自ら救出に向かい事になる。彼女の乗る女駕籠に、一馬を乗せ、福井藩からの脱出を目論むのだが・・・、というのが本巻の読みどころ。

もちろん、琴姫自らが、といっても単独で行くわけではなく、お供を連れてのこと。加賀の忍びを差配する本多家のお姫様であるから、腕利きの「女軒猿」が複数名同行するということで、平穏な救出にはならないことは、この設定で明明白白である。

さらに、琴姫は評判の美人である上に、福井藩の当主・松平綱昌の精神状態がおかしくなってきていて、自分の地位を守ろうとするだけでなく、色ボケもひどくなる、という展開なので、一馬の命だけでなく、琴姫が乱暴されないか心配させるあたり、筆者は読者の心の動きをよくつかんでいますな。
ちなみに、この松平綱昌というお殿様、後に、史実でも、精神状態が不安定で乱行が続いて、藩主の座を追われてしまう。その原因は、この殿様が代替わりをした時の、跡目を巡っての藩内の対立にあったようで、加賀藩との軋轢があったかどうかは別にして、この類の藩内の騒乱はあったのかもね、と想像させる。

なんといっても、今巻の読みどころは、琴姫一行の侍女として付き従う、夏、杉、楓といった、「女忍」の大活躍である。
例えば、大聖寺藩の領内で琴姫を殺そうとする、加賀藩の反本多政長派の侍を城下の宿屋で

いいな、殺すなよ。殺せば騒ぎになる、姫様のごシュッ質に影響が出ないとはいえなくなる、殺すkとなく、戦う力を奪え。目を潰すか、両足の腱を切るか、両腕をへし折るか。それくらいならば、喧嘩を装えよう

と苦もなく片付けたり、一馬と合流して藩境を目指す琴姫一行を襲う、越前松平藩の先手組に対して

越前松平藩士たちがうろたえた。見た目は若い乙女が、馬よりも早い足で向かってきているのだ。困惑して当然では会ったが、それは大きな隙きになった。
「邪魔だ」
「愚か者ども」
夏が逆手に握った懐刀を小さく閃かせて越前松平藩士の首を裂き、楓が手裏剣でその隣の藩士の目を突いた。
「手裏剣は高いのでな、そなたらていどで使い捨てにはでききぬ」
楓が続けてその奥にいた三人目の喉をついた

といった風に、二十人以上の藩士を壊滅させたり。圧巻は、福井藩主・松平綱昌たちが、一馬・琴姫一行を取り囲んで狼藉を働こうというところで

「羽根田、御子神、志賀、女どもを押さえろ。吾が加賀藩の者を・・・」
命を受けた工藤が志賀たちに指図を出した。
「・・・どうした、動け」
反応しない三人に、工藤が怪訝な顔をした。
「・・・・」
声もなく、三人の藩士が馬から落ちた。
(略)
驚いた工藤が落ちた藩士の喉に手裏剣が刺さっているのに気付き、それを見た綱昌が絶句した。

といったところは、胸のすく思いがしますね。

【まとめ】

ネタバレを少しすると、越前松平家を牛耳り、主家を危うくさせた「本多大全」は小悪党っぽく、藩外に逃亡しようとするところを成敗されてしまう。
ハラハラ・ドキドキ、、そして大団円。しかし旅は続く、といった「水戸黄門」的時代劇の要素は全ておさえてあるので、秋の夜長の読み物に最適な気がいたします。


本多政長、江戸へ召喚。数馬の新たな任務とは ー 「百万石の留守居役12 分断」

外様の雄藩である加賀藩前田家の江戸留守居役・瀬能数馬をメインキャストにした、時代小説「百万石の留守居役」シリーズの第12弾。

前巻までは、参勤交代の差配をするために道中の藩との折衝に奔走したり、本家への復帰を狙う分家の家老による「前田綱紀」の暗殺を未然に防いで、加賀前田家を無事守り通した数馬が、妻・琴姫と新婚生活を送れるかと思いきや、再び新たな任務にかり出されていくのが今巻。

しかも、今回の任務は、義父で琴姫の父・本多政長にからんだもので、四代将軍・家綱の急死に伴う五代将軍選びに端を発する、下手をすれば加賀前田家の存亡にかかわっきかけない事件の処置である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 加賀の難
第二章 執政の覚悟
第三章 本家と分家
第四章 筆頭の矜持
第五章 本多の血

となっていて、まずは江戸の加賀前田家の屋敷を襲った、江戸の闇を支配していた「武田党」の頭領・武田法玄が殺された後の顛末からスタート。「武田党」は首領の死後、まわりから縄張りを奪われ始めていたのだが、党の生き残りの法玄の息子「四郎」がいる本拠に攻め入った一味が簡単に撃退される。この「四郎」という人物、かなり強いのは確からしい。武田党の情けない壊滅(第十巻「忖度」のレビューを見てくださいな)は「四郎」が裏切って、父の法玄を殺害することが原因なのだが、それもこれも、四郎が数馬の妻・琴の配下の忍・佐奈に惚れてしまったことが原因なのだから、女性の力は無敵ですな。
もっとも、今回、武田党が襲った時の加賀藩の屋敷内の長屋の壁の残骸が、老中・大久保加賀守の手に入って、加賀藩前田家へいちゃもんをつけられる原因となるので、もめ事はないに越したことはないし、この襲撃の原因も佐奈が四郎をこっぴどく振った上に痛めつけたのが元なのだから、佐奈ちゃんも反省はしないといけないな。

さて、物語の本筋は、加賀前田家の「堂々たる隠密」として藩政を任されていた本多政長が幕府に召還され、江戸へ赴く道中がメイン。本多政長が呼び寄せられる目的は、前田綱紀と本多政長の推理によれば「先祖の功績を盾に、本多家を譜代大名にし、前田家から引き離す。」ということで、大名にできれば九州か東北あたりの遠いところに封じて縁遠くさせたり、前田綱紀の反対によって大名にできなくても本多に前田家への恨みを残す、という策略らしい。根底には、将軍・綱吉の加賀前田家の取り潰しの企みがあるので、将軍に目通りしたらしたで、これから面倒なことが続きそう気配がしますね。

道中のバトルは、本多家に先祖代々の恨みを持つ、大久保加賀守に踊らされた、加賀藩の分家・富山藩の元家老の近藤主計や、旗本の横山長次とその親戚の前田家の江戸筆頭家老・横山玄位と政長・数馬一行との間におきる。今巻は、武闘シーンだけでなく、江戸屋敷内と横山一派と次席の江戸家老・村井次郎衛門とのやりとりや、江戸城へ向かおうとする江戸家老・横山玄位を数馬がどうやっら足止めをしたか、など智略比べの要素も多い。加賀前田家や瀬能数馬に難癖をつけたり、邪魔をしてくる相手が、かなり権力も地位もある輩が大半であるせいなのだろうが、「剣術」ばかりではなく、相手の心理の隙をついて落とし込むところは、単純な時代小説よりも「深み」のある楽しみ方ができるシリーズですな。

【レビュアーから一言】

ようやく「留守居役」の仕事も板についてきて、加賀前田家の筆頭家老・本多家から迎えた嫁さんの琴姫との仲もうまくいきそうなところであったのだが、本多政長が江戸へ召還され、彼ととともに働くこととなった数馬には、ますます「難題」がふりかかってくるのが予想されて、気の毒ではあるが、読者にとっては楽しみも増えたというもの。女忍びの「佐奈」を慕う、武田党の残党「四郎」という新たなキャストも登場したことで、政略だけでなく、「佐奈ちゃん」ファンも、新たな期待が出てきたようですね。


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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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