上田秀人「御広敷用人 大奥記録5 血の扇」「御広敷用人 大奥記録6 茶会の乱」(光文社文庫)

2019年5月17日金曜日

上田秀人

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 「勘定吟味役異聞」シリーズで、将軍家宣の寵臣・新井白石に見出され、綱吉時代から行われた勘定奉行や豪商などによる幕府内の様々な不正を暴いてきた水城聡四郎が、今度は新将軍の徳川吉宗に見出され、「大奥」を相手に大暴れする「御広敷用人 大奥記録」シリーズの第5巻~第6巻


竹姫代参に始まる天英院と伊賀者の連続の襲撃をどうかわす ー 上田秀人「御広敷用人 大奥記録 5 血の扇」(光文社文庫)

前巻で、大奥での御広敷用人襲撃の罰として謹慎を命じられた竹姫が、天英院たちに勧められて、深川八幡宮へ代参することになったのだが、当然、無事にすむはずもなく、刺客の襲撃と、刺客が失敗しても、その対応に時間がかかれば門限に間に合わなくなるとるという二重の罠か仕掛けられる。聡四郎は、伊賀や館林松平の刺客たちから竹姫を守れるか?、さらには竹姫と共に参詣をして護衛をすることになった紅の働きは・・・、というのが今巻。

もちろん、聡四郎を取り巻く「陰謀」「襲撃」はこれにとどまるわけがなく、今回のアクションシーンは、深川八幡宮境内、江戸城内、聡四郎の旗本屋敷と舞台を変えながら激しい争闘が続いていくので、時代劇アクションの連続が楽しめる展開になっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 女駕籠第
二章 退き口の忍
第三章 長袖の謀略
第四章 師の援(たすけ)
第五章 伊賀のあがき

となっていて、まずは、吉宗の長寿祈願で、深川八幡宮に代参にでかけた「竹姫」一行が刺客に襲撃されるところから、スタート。この刺客を雇ったのは館林松平家の江戸家老なのだが、本当の依頼者は天英院で、この巻あたりから彼女が吉宗の因縁の仇敵になってくる。ただ、大奥で御広敷番を襲った事件のとばっちりで謹慎の罰を受けた「竹姫」への大奥のイジメに乗じて竹姫を害そうと企んだものなので、わざと竹姫に軽い罰を与えて、いろんなものを誘い出そうとする吉宗の謀略のほうが一枚上手であった、ということかもしれない。

竹姫襲撃事件のほうは、聡四郎と玄馬の活躍で館林松平家の雇った無頼のものはあっという間に撃退。ついでのその騒ぎに乗じた伊賀者も始末される。ただ、一番功績のあったのは聡四郎の妻「紅」。無頼漢たちが竹姫を襲撃する騒ぎが一段落したところにつけこんで、竹姫を襲おうとした伊賀の女忍の攻撃を捨て身で防ぐのでありました、という大功績。もっとも、その内容は、女忍に人質にされたことを良しとせず、自ら女忍の刃に刺されようとするのだから、この人の気の強さも相当なものである。

中程のところでは、天英院の実家の父親・近衛基熈が、朝廷における失地回復のために、紀州徳川家に脅しをかけていくのだが、そのネタが吉宗の実母が隠れキリシタンで、それが吉宗の実父が吉宗を表に出したがらなかった理由では、という説は真偽は別にして面白いですね。このあたりのやりとりで注目すべきは、吉宗の跡を継いだ宗直と附家老の安藤帯刀の将軍位に対する生臭さと才能のなさで、意気込みは認めても、シリーズを左右するほどの活躍は無理ですな。近衛と紀州の京屋敷用人・久能のやりとりに口を挟みすぎて自滅する若い侍については、上昇意欲の強い若者の張り切りすぎと許せるかどうかは、それぞれの判断ですね。

この「竹姫」襲撃で一番損をしたのは、御広敷伊賀者で、吉宗によって御広敷の勢力を分散されてしまう。さらには、御広敷伊賀者の棟梁・藤川が、この仕打ちに怒った老齢の伊賀者二人が吉宗の生命を狙うのを抑えなかったのがダメ押しですな。この藤川という頭領は、聡四郎が自分たちの隠し財源を暴こうとして役についたと誤解して襲わせたり、館林松平家の味方してみたり、とどうも先を見通す力が弱いですね。シリーズの後半のほうで、江戸の闇を仕切る立場に食指を伸ばすのだが、そうなると闇の勢力がかえって窮地に陥ることになるかもしれんね、と思った次第である。

さらに、竹姫を襲った女忍の一人・袖が生き残って、聡四郎の屋敷で治療されるのだが、これは、このシリーズのこれからの展開に大きな影響を及ぼしてくる。身内の伊賀者の吉宗襲撃の失点を回復しようと、聡四郎の屋敷を襲って「袖」を殺そうとしたのが、さらに墓穴を掘ることになっていくのだが・・・、といったところで次巻へ続く。今巻のところでは、江戸城内での吉宗襲撃と、聡四郎の屋敷での「袖」襲撃のアクションを楽しんでくださいな。

【レビュアーから一言】

権力を巡っての女性の争いというのは、結構厳しいのね、という印象を與えるのが、今巻から本格化する天英院の吉宗憎しの行動で、それに、家柄も何も「下」に見ていた竹姫が成り上がっていくのが、火に油を注ぐ状態になっているのは間違いない。

ただ、天英院に味方する勢力と吉宗に味方する勢力との力と勢いの違いが如実に出てくるのも本巻からで、味方はちゃんと選ばないとね、とビジネス書まがいの教訓を与えてくれますね


野点の茶会を舞台に、天英院、月光院、竹姫が三つ巴の「女の戦」 ー 「御広敷用人 大奥記録6 茶会の乱」

前巻で、竹姫襲撃が失敗して、立場が悪くなった天英院であったのだが、「吉宗憎し」に加えて、「竹姫憎し」という状態になり、これと旧来の「月光院憎し」が合体してだんだんと手がつけられなくなっているのだが、今回は起死回生の一手として「茶会」を催すことを企画する。

そして、同じく御広敷伊賀者だけでなく、江戸城の伊賀者の中での立場が微妙になってきた、御広敷伊賀者の頭領・藤川も、一発逆転の一手を探り始める、というのが今巻。

【構成と注目ポイント】

第一章 御広敷の乱
第二章 将軍の一手
第三章 女の陰謀
第四章 野点の争い
第五章 忍の未来

となっていて、天英院が、彼女と大奥を二分する実力者・月光院を貶めるための「茶会」を企画するところからスタート。茶会で月光院の茶道具を馬鹿にして恥をかかせようとする企みなのだが、馬鹿にする役目の女中はそのための大奥かた放逐されてもいいでしょ的な、まさに支えてくれる部下のことは考えない、仕えたくない上司の典型である。

ただ、この企みが漏れないわけがないというのが大奥の争いで、両陣営の「菓子自慢」「道具自慢」の競争になっていくのだが、そのとばっちりを受けるのが、またも「竹姫」で、聡四郎の手配の菓子がどこで作られたかわからない「ゲス」なものだと二人に散々馬鹿にされるのである。決着のつかない争いの持って行き先がないと、若い美人イジメは加速してしまいますわな。

今回も最後にやってきて、水戸黄門的な役割をするのは、「吉宗」で、天英院と月光院が馬鹿にした竹姫の「菓子」も、吉宗が仕掛け人であるので、これは最初から何かを仕組むつもりだったのでは、と邪推されても仕方ないであろう。

後半部分は、度重なる失策で、とうとう御広敷伊賀者のいる場所がなくなった元頭領・藤川が館林松平家と本格的に手を組む。さらには、伊賀の郷忍の親玉を、天英院の実家である京都の近衛家に斡旋して「御所忍」復活させようと企む、といった展開で、「武」の部分では聡四郎にかなわない伊賀者を謀略の点では聡四郎をうわ回る才能でありますね。

最後のところは、その郷忍の親玉から、聡四郎の屋敷で治療している「袖」のところに毒針が届けられる。これで聡四郎をなんとかしろ、という命令なのだが、さて袖はどうするのか・・・、といったところで次巻に続きます。

【レビュアーから一言】

今回は、「茶会」を舞台にした「女」の「文化・教養」の闘いが中心であるので、刀や手裏剣を使った「戦闘」シーンは少なめ。その分、次巻以降に期待しましょう。

そして「東京びいき」の人には申し訳ないのだが、この巻の「野点」で注文された菓子屋は「桔梗屋」「土佐屋」「すはまや」「松尾山城」といった店で、いずれも京都が本店の江戸出店で、すべて「京菓子」だそうですから、吉宗の時代、こういう分野では「江戸」はまだまだ力不足であったようですね。


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日本の人口最少県の住人。なりわいは行政書士。読書好き、ガジェット好きの昭和人です。

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